しかし、14年にクリミアを併合したことでロシアは国際的に孤立し、中国も米国が構築を目指す対中包囲網に懸念を強めたため、両者の軍事協力は本格化することになった。海上連合演習も両海軍が水上戦、防空戦、対潜戦、上陸戦、捜索救難などの能力を高める場となり、演習を行う場所もクリミア併合後は地中海、南シナ海仲裁判断後は南シナ海が選ばれ、両国が国際社会と対立を深める中で互いの立場を支持する姿勢を見せるようになった。制裁と原油安で苦しむロシアは中国に最新鋭のSu-35戦闘機やS-400地対空ミサイルを提供することを躊躇しなくなり、両軍幹部の交流も深まるようになった。
時を追うごとに拡大していく軍事協力
そのような中、中露が日本周辺で共同作戦を行うことも増えてきた。最初にそのような事例が確認されたのは、16年6月にロシアと中国の艦艇が同時に尖閣諸島の接続水域に入った時である。
この時の両者の意図は依然として不明であるが、中露とも日本と領土問題を抱える中、尖閣諸島沖で連携を示すことで日本側を牽制した可能性がある。その後、17年8月にはロシア機が日本海から東シナ海に入り東回りで日本を周回飛行した翌日に、中国機が同様のルートで紀伊半島沖まで飛行し、両国が連携している可能性を示した。
また、18年2月にも、両国の軍用機が日本海でやはり連携しているかのような飛行を行った。そして、19年7月と20年12月には、両国の戦略爆撃機が日本海から東シナ海で「共同飛行」を実施したことを公式に発表した。
予測できた中露海軍の日本一周
今回、中露海軍が日本を1周したのは、以上のような両国の軍事協力の拡大をみれば、十分予測できたことであるし、今後も続いていくとみるべきである。
13年にウラジオストク沖で海上連合を行った後、ロシア艦艇16隻に続いて中国艦艇5隻が宗谷海峡を抜けてオホーツク海に入った。この時は中露が同時に海峡を通航しなかったし、艦艇の数もロシアの方が圧倒的に多かった。しかし、今回の事例では同時に津軽海峡と大隅海峡を通航しており、艦艇の数もそれぞれ5隻と対等で、両国とも「合同巡行」と公式に位置づけている。爆撃機による「共同飛行」が複数回実施されたことを考えれば、海軍による「合同巡行」も一度で終わるとは考えにくい。
頭の片隅にはAUKUSも
もっとも、中露の「合同巡航」には、近年米海軍が台湾海峡の通航頻度を増やしていることや、英国やフランス、カナダなどの域外諸国も同海峡を通航するようになったこと、また英空母打撃群の極東展開に合わせて大規模な海軍演習が西太平洋で頻繁に行われたことに対抗するという意味もあったであろう。
英艦船は西太平洋に来る前にクリミア沖の領海で航行の自由作戦を行っており、ロシアも西側諸国の海軍が連携を深めることに憂慮していると考えられる。英米豪が新たな安全保障の枠組みであるAUKUS(オーカス)の下、原子力潜水艦など軍事技術で協力を深めることへの牽制の意味も込められていたかもしれない。