2024年4月26日(金)

新しい原点回帰

2022年1月29日

 タクシー業界で取り組んでいる「子育てタクシー」も早くから手がける。事前登録した上で、4歳以上の子どもだけを幼稚園や塾などに送迎する「ひよこコース」というサービスや、妊娠中の女性が陣痛に備えて登録しておき、いざという時にタクシーで産院まで送る「こうのとりコース」などがある。通常の迎車料金と走行料金だけで利用できる。実際に産院まで送ることになったケースはそれほど多くないものの、念のために登録しておくという妊婦さんは多いという。

「父の代から言われてきたことは、何しろ、地域で一番頼りにされる存在になれ、ということでした」と菊池社長。必要とされるサービスを提供し続けられれば、事業は持続する。

ドライバーの
定着率が高い

 逗子菊池タクシーにはもうひとつ特徴がある。ドライバーの定着率が高い、というのだ。「流し営業」がないので、あくせく営業成績を追いかける必要もない一方で、客層が良いことから、安定的な収入が得られる。また、顔見知りの顧客も増え、長年の人間関係が出来上がって、トラブルも少ないためだという。20年以上勤務するベテランも少なくない。一方で、業界全体の問題でもあるが、平均年齢はどんどん上昇し、60歳近くになっている。

 新型コロナウイルスの蔓延で、タクシー業界は大打撃を受けている。逗子菊池タクシーも例外ではない。通勤などで外出する人の数が激減し、酒を飲んで深夜に戻ってくる客もいなくなった。深夜の時間帯の出勤時間を減らし、交代で休んで雇用調整助成金を得ることで、何とか持ち堪えている。そうなると、タクシーがないと出かけられない高齢者などが、会社にとってますます「上顧客」になっていく。

 自動運転など新しい技術の誕生で、タクシーのサービス自体が根底から変わる可能性もある。菊池社長は業界団体のリーダーとして、新しい時代のタクシー会社の役割を追求する勉強会も始めている。「神奈川県のタクシー会社は経営者が代替わりの時期を迎えていて、将来に備えて変えていこうという意識が強い」と菊池社長。アプリを使った配車サービス「GO」など新しいサービスも積極的に導入している。

 菊池社長は、タクシー会社の役割が全てなくなるはずはない、と将来を見据えている。「運転が自動になっても、運行管理や、お客さまの手助けなどは必要です。タクシーは形を変えても最後まで残る仕事ではないかと思います」という。地域で必要とされ、「一番頼りにされる存在」であり続ければ、どんなに時代が変わっても、会社は必ず存続していく、ということだ。

写真=湯澤 毅 Takeshi Yuzawa

 

   
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Wedge 2021年11月号より
脱炭素って安易に語るな
脱炭素って安易に語るな

地球温暖化に異常気象……。気候変動対策が必要なことは論を俟たない。だが、「脱炭素」という誰からも異論の出にくい美しい理念に振り回され、実現に向けた課題やリスクから目を背けてはいないか。世界が急速に「脱炭素」に舵を切る今、資源小国・日本が持つべき視点ととるべき道を提言する。


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