「ようやく『世界に追いついたね』と言ってくださる方が増えてきました」と微笑むのは柳澤管楽器の柳澤信成社長。3代目で父の代から続くサクソフォン作りに力を注ぐ。戦後、見よう見まねで、まさにゼロからサクソフォンを作った父・柳澤孝信氏に、「本物を作りなさい」と言われ続けてきた。
今もその教えを守る。「手をかけないと良いものにならないんです」と口元を引き締めた。月に650本ほど作るサクソフォンは完全受注生産。少量多品種で、演奏家の好みを聞きながら作る。まさに手作りだ。
サクソフォンは1840年代にベルギーの管楽器製作者アドルフ・サックスが発明した。170年ほどの歴史は、バイオリンやピアノなどに比べると「新しい楽器」だ。「楽器としての完成度も発展途上と言え、まだ、いくらでも成長する可能性があります」と柳澤社長。作り手の工夫で、まだまだ改良する余地がある楽器だというのだ。
欧州で生まれたサクソフォンは、吹奏楽団などで使われていたが、米国でジャズと出会う。これが楽器として人気に火をつけた。名器と言われる楽器も生まれる。フランスのセルマー・パリ社が1950年代に生み出した「セルマー・マーク6」は今でもビンテージ・サクソフォンとして売買されている人気モデルだ。
軍楽隊の楽器を修理する
ことが最初の仕事
日本における管楽器製造は、初代柳澤徳太郎が1896年(明治29年)に軍楽隊の輸入管楽器の修理を始めたのが起こりとされる。欧米との戦争が始まると楽器を輸入できなくなり、修理工房は楽器製造工場へと姿を変え、日本で管楽器生産が始まった。戦後、復員した2代目孝信氏が1951年(昭和26年)に楽器作りを志し、サクソフォン作りに乗り出した。