2024年4月25日(木)

新しい原点回帰

2022年1月15日

固定観念を取り
考え直す

 セルマー、ヤマハと肩を並べ、世界有数のサクソフォン・メーカーになった柳澤管楽器。だが、これで完成、という楽器は簡単にはできないのだという。まさにサクソフォンは常に進化し続けている楽器なのだ。

「素晴らしい『鳴り』を突き詰め、その先にどんな楽器を作り上げていくか。自分たちが作りたい本物の楽器は何なのかまだおぼろげにしか見えていない感じです」と柳澤社長は語る。

 その音の追求に当たる従業員も置く。研究開発室の村越聖さんと佐藤幸宏さんだ。「固定概念をすべて取り払って考え直すところから始めています」と勤続20年になる村越さんは言う。「ネジ一つで音が変わるので、これまで作ってこなかった形状だったり、材料だったり、いろいろ試しながら、実際に音を出して確かめていく」(佐藤さん)のだという。

 そうした作業から生まれた新商品が「WOシリーズ」。楽器の穴の場所を検討して設計し直すことで、理想的な音程や音色を実現したり、キーの位置をわずかに変えることで、演奏者の指の運びをスムーズにするなど、改良を加えている。

 もちろん、プロの演奏家と共に開発を進めることもある。ライブで実際に使ってもらいフィードバックをしてもらっている。演奏家の声を直接聞くことで、さらに楽器を進化させていく。

 100人ほどの従業員が働いているが、工場で手作りの作業をしている人たちには若い人も多い。もともと吹奏楽をやっていて、楽器が好きで柳澤管楽器で楽器作りを志した人たちだ。

 同社のホームページにはこんな柳澤社長の言葉が載っている。

「作り手の気持ちや心が、作るという作業を通じて、楽器に入り込むと言ったら信じてもらえますか?」

 まさに、サクソフォンを愛し、究極の音を求め続ける多くの職人の思いが、世界一の楽器を形にしていく。出来上がっていくサクソフォンを見ていると、彼ら彼女らの心が楽器に入り込んでいるように感じられた。

写真=湯澤 毅 Takeshi Yuzawa

 
 

   
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人をすり減らす経営は もうやめよう
人をすり減らす経営は もうやめよう

日本企業の“保守的経営”が際立ち、先進国唯一ともいえる異常事態が続く。人材や設備への投資を怠り、価格転嫁せずに安売りを続け、従業員給与も上昇しない。また、ロスジェネ世代は明るい展望も見出せず、高齢化も進む……。「人をすり減らす」経営はもう限界だ。経営者は自身の決断が国民生活ひいては、日本経済の再生にもつながることを自覚し、一歩前に踏み出すときだ。


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