2024年4月20日(土)

世界の記述

2021年11月28日

 アルジェリア政府は今年8月、同国に対し隣国モロッコが「敵対的行動」を継続しているとし、国交断絶を発表した。両国は長年、モロッコが領有権を主張する西サハラ問題をめぐり緊張関係が続いていた。そしてアルジェリアのテブン大統領は10月31日、モロッコに対し、パイプラインによる天然ガスの輸出停止を命じた。

 その間接的な被害を受けたのが、天然ガスの約47%をアルジェリアに依存するスペインだ。同国のガス輸送網管理会社「エナガス」によると、そのうちの半分が、今回遮断されたモロッコを経由してスペインに至るパイプラインで賄われていた。

北アフリカでの対立が、スペインのエネルギー事情に打撃を与えた (AFP/AFLO)

 10月28日、アルジェリアを訪れたスペインのリベラ第4副首相は、現地で行われた記者会見で「これは北アフリカ二国間の対立で、スペインは干渉できない」と示唆。天然ガス確保の見通しは立たなかった。

 モロッコから地中海45㌔メートルにわたるパイプラインを経て、スペインに供給されてきた天然ガスは、今後、タンカーで液化天然ガス(LNG)を運ぶ見通しだ。しかし、運送船の停滞化とコスト高がネックとなっている。

 スペインの電気会社「REE」のペドロ・ミエルゴ前会長は、同国主要紙『エル・パイス』に対し「アルジェリアから直接、輸入できる運送船会社と交渉を進めるか、米国、中東、北欧から同じガスを運び込む」といった選択肢に迫られると話した。

 また、バルセロナ大学で地球科学を専門とするマリアノ・マルソ名誉教授は、「短期的な解決策は、LNGを輸入するしかない」と指摘。課題は、天然ガスの液化、輸送船のコスト、液体から再び天然ガスに戻す作業だ。

 モロッコの経済的損失も大きい。スペイン経済紙『シンコ・ディアス』によると、パイプラインの停止により、年間2億㌦(約264億円)契約の通行権を失い、国内10%の電気消費分に当たる数百万立方㍍の天然ガスの確保もできなくなるという。

 パイプライン停止の問題に加え、欧州では、天然ガスの市場価格急騰が今年9月から懸念されている。ガス料金は一時、1㍋ワット時あたり155ユーロ(約2万円)と、史上最高額をマークした。

 一般家庭では、通常の2倍以上の月額請求となり、新型コロナウイルスからの景気回復を狙う飲食店にとっては二重の打撃になっている。スペインは今冬、厳しい寒さを迎えそうだ。

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InterviEw1 コロナ感染と相似形 生活インフラを脅かすIoT攻撃
吉岡克成(横浜国立大学大学院環境情報研究院・先端科学高等研究院准教授)
coLumn1 企業を守る手段の一つ リスクに備える「サイバー保険」 編集部
Part2 主戦場となるサイバー空間 〝専守防衛〟では日本を守れない
大澤 淳(中曽根康弘世界平和研究所主任研究員)
Part3 モサド元高官からの警告 「脅威インテリジェンス」を持て
ハイム・トメル(元モサド・インテリジェンス部門トップ)
Part4 狙われる海底ケーブル 中国サイバー部隊はこう攻撃する
山崎文明(情報安全保障研究所首席研究員)
Part5 〝国家〟に狙われる日本企業 経営層の意識変革は待ったなし
川口貴久(東京海上ディーアールビジネスリスク本部主席研究員)
coLumn2 不足するサイバー人材 「総合力」で企業を守れ  編集部
InterviEw2 「公共空間化」するネット空間 国民を守るために必要な機関
中谷 昇(Zホールディングス常務執行役員GCTSO)

   
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