ロシアとドイツをバルト海経由で結ぶ天然ガスのパイプライン、ノルド・ストリーム2について11月16日、ドイツの規制当局は、その稼働に必要な認証手続きを一時停止することを公表した。
ノルド・ストリーム2の完成を阻止するための制裁はバイデン政権下で発動されるかに思われたが、5月に制裁は見送られた。ワシントン・ポスト紙コラムニストのジョシュ・ロウギンは11月11日付け同紙論説‘Biden can deny Putin another tool for menacing Europe’で、プーチン大統領が欧州に対するガスの供給を戦略目的のための武器として使うことは明白であり、バイデン大統領はこれを阻止すべきことを論じている。
ロウギンの論説でも触れられているが、ブリンケン国務長官が制裁に積極的であったのに対し、ホワイトハウスに決定を覆されたようだ。そうでなければ、ブリンケンの発言と政権の行動との落差が大き過ぎる。
3月には、ブリンケンは、このパイプラインに関与している企業には米国による制裁のリスクがあり、直ちに撤退すべきであると警告する声明を発表した経緯がある。しかるに、バイデンは、5月には国益を理由とする大統領の制裁免除権限を行使してノルド・ストリーム2事業会社に対する制裁を見送る決定をした。
米議会においては不満が大きいが(特にその急先鋒の上院議員テッド・クルーズはその意趣返しに大使人事の上院の承認を妨害している)、下院では国防授権法の修正という形で、大統領の国益を理由とする制裁免除権限を排除した制裁法が可決されている。上院ではこれに見合う同様の法案が提案されている。バイデン政権はこの法案の成立を阻止すべく民主党議員に働き掛けているらしいが、国防授権法は拒否権を安易に行使し得ない重要法案であり、年末に向けて紛糾することになるかも知れない。
バイデン政権がパイプラインに打撃となる制裁を見送ったのは、ドイツとの関係を壊すことを避け、ロシアとの間に「安定的で予測可能な関係」を構築することを目指してプーチンの行動を見極めようとしたのであろう。しかし、昨今のロシアの行動はこの期待を裏切るものである。
ドイツの規制当局にノルド・ストリーム2の稼働の早期承認を迫るために、欧州にガスを道具に揺さぶりをかけていることもそれである。モルドバに対する締め付けもそれである。