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Wedge SPECIAL REPORT

2021年12月20日

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森信茂樹 (もりのぶ・しげき)

東京財団政策研究所 研究主幹

1973年京都大学法学部卒業後、大蔵省入省。主税局調査課長、主税局総務課長、東京税関長、財務総合政策研究所長を歴任。2006年に財務省を退官し、中央大学法科大学院教授などを経て、18年より現職。著書に『税で日本はよみがえる:成長力を高める改革』(日本経済新聞出版)など多数。
 

 現代貨幣理論(MMT)とは、「自国通貨を発行する権限のある政府は、中央銀行が財政赤字分の国債を買い続けることによって、国民負担なく財政出動が可能だ」という理論である。その結果、慢性的な投資不足で民間部門に貯蓄余剰(カネ余り)がある場合、財政再建や緊縮財政政策を行う必要はなく、これを埋め合わせる財政出動が望ましい、という結論になる。ただし歯止めはインフレ懸念で、徐々にインフレ率が上昇し始めたら、増税や歳出削減によって対応する、その仕組みをあらかじめ決めて(組み込んで)おけばいいとする。

 肝は、政府と中央銀行の勘定を「国家」として一体とみなすことで、財政赤字拡大に伴う国債の増発分は、それに見合う国民の資産増加額となる(会計的に一致する)という点だ。その結果、公的債務は将来世代の負担にはならないので、財政赤字の拡大は気にする必要はない、とする。 

 米国では、MMTが格差是正や社会保障の拡大を求める民主党左派の支持を獲得し、わが国では財政赤字を気にすることなくコロナ禍での経済対策を行うことを正当化する文脈でしばしば用いられている。

 MMTは、金融政策が「流動性の罠」に陥り機能不全となっている現状で、それを解決する一定の理論を提供しているともいえるが、わが国では、「国はいくら借金をしても大丈夫」という部分だけが都合よく切り取られて論じられる場面が多い。以下、わが国のMMT論者に決定的に欠けている論点を見てみたい。

規律欠如が招く放漫財政
「取捨選択」の判断軸を捨てるな

 一つ目は、予算編成の規律の欠如が招く弊害だ。教育や福祉、インフラ整備など、必要なところに制限なく予算をつけることができるということでは、予算の無駄に歯止めが利かなくなる。制約がなければ、全ての予算要求は「国民にとって必要なお金」となり、予算を投じた政策の効果検証も甘くなり、「本当に必要な予算かどうか」の判断軸がなくなる。政策効果の高い歳出に対して選択的に予算を充当する「ワイズ・スペンディング」が機能せず放漫財政になれば、国家の拠って立つ信任を失うことにもつながる。

 2021年11月に決定された55兆円余の経済対策をみると、18歳以下の子ども1人当たり10万円給付がほぼ全世帯に配られ、国土強靭化と銘打って公的事業を潜り込ませるなど、規模ありきの従来型の内容となっている。新たに整備された国の資産に対し、投じられた予算に見合うだけの有効活用がなされなければ、維持費だけがかかり価値に棄損が生じるわけで、「借金は国民の資産になるから大丈夫」とはいえなくなる。財政拡大はケインズ理論において有効な政策だとみられているが、これをそのまま「成長戦略」とするのは違和感がある。

 長年大蔵省・財務省で予算編成に携わってきた筆者の実感からすれば、このような考え方は、予算編成の「リアリティー」に欠けた「バーチャル」な議論に思える。

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