政治の〝人気取り〟は
いずれ国民の「負担」となる
最後に、MMTの最大の問題は、将来の「負担」の問題から目を背けさせ、「給付」のモラルハザードを起こしかねないことだ。先の選挙では与野党ともに「バラマキ競争」を演じ、緊急時という名目で、経済対策も異常なほど予算規模を膨張させた。
安倍政権は戦後最長の長期政権を維持したが、その背景にはアベノミクスの(意図せざる)リベラル性があったと考える。消費税率を8%、10%へと引き上げ、十数兆円の財政資金(財源)を活用して、子育て支援や幼児教育の無償化、待機児童解消などを進め、高齢者に偏っていた社会保障を「全世代型」に切り替えることで、子育て世代からの支持を広げていった。大和総研の調査結果によれば、2012年~20年の間に2度の増税を経験しながらも、30代4人世帯の実質可処分所得は増加したとされる。これは幼児教育の無償化によるためだが、先の選挙ではこの世代が自民党最大の支持層となった。
このことからいえるのは、多くの国民は、たとえ増税や社会保険料負担の増加により国民負担が高まったとしても、その使い道や現実的な将来像が明確に示され、その恩恵を実感できれば、それら負担を受け入れる素地を持っているということである。
賃金を上げても、医療、年金、介護、子育てに対する将来不安が残る限り国民は消費に振り向けず、子どもも持てず少子化につながっていく。若者の間にはびこる「将来不安」という〝リアル〟な現実が、消費を抑え、わが国が経済停滞・デフレから抜け出せない最大の要因となっている。
今求められる政策は、MMTの議論を持ち出して〝いいとこどり〟をし、現実から目を背けるのではなく、安心できる将来像を示し、国民に理解を求めていくことではないか。岸田文雄首相の唱える「新しい資本主義」は、負担と受益の問題の原点に戻り、将来不安を軽減させるような将来ビジョンを示すことが中身であってほしい。
岸田首相が会長を務める政治派閥・宏池会の源流ともいえる吉田茂元首相はかつて、「政治のあらゆる段階に人気取りが横行する。それは結局国民の負担となり、政治資金の乱費となる。ひいては政治の腐敗、道義の低下を助長するのである」と言った。今こそ、この言葉をかみしめたい。
■破裂寸前の国家財政 それでもバラマキ続けるのか
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