2024年4月26日(金)

立花聡の「世界ビジネス見聞録」

2021年12月20日

「第三の道」はどこにあるのか

 社員の個人事業主化は、組織内の上下の人間関係を組織外に移行し、横の対等な取引関係にするという「手段」で、会社利益と社員利益という二つのベクトルの方向を一致させることを「目的」としている。

 つまり個人事業主は単なる手段にすぎず、目的ではない。その手段に法的問題や社員の疑念・懸念といった副反応が生じたなら、代替手段の可能性を探るべきではないだろうか。

 本来ならば、タニタの社員向けの覆面座談会や個別インタビューで本音を探り、そこで得たフィードバックに基づいて語るべきだった。現状では、まだ1割程度という高いとはいえない個人事業主率から、多くの社員には何かしらの戸惑いがあったのではないかという暫定的な仮説としたい。

 会社利益と社員利益という二つのベクトル、その方向を一致させるという目的には、私は強く賛同している。残されるのは、正社員と個人事業主の間に、「第三の道」を模索し、切り開くことだ。インタビューの中でも一部触れたが、雇用関係の存続、社員身分の維持という前提の下で、会社利益と社員利益を一致させるという目的を達成することだ。

敗者復活と弱者救済の可能性を

 戦後の日本では、新卒の一斉採用から各社は独自の社内教育を施し、社員には自社にしか通用しないスキルを身につけさせてきた。そのうえ、内部労働市場のメカニズムよりも、むしろ人事部の異動辞令によってあちこち社内の仕事を経験させてきた。

 社員は世間一般、社外にある外部労働市場の競争、サバイバルの試練に晒されていない。そんな無菌状態に置かれてきた大方の社員にとって、「明日から事業主になる」という選択肢はいささか唐突に見えるのではないだろうか。

 最後に、敗者復活と弱者救済ルールについての私案を提示しよう。

 外部労働市場に社員を送り出す前に、まず社内(内部労働市場)でフィルタリングをかける。サバイバルゲームの訓練を行い、失敗を乗り越えてもらうためにも、敗者復活のチャンスと一定の弱者救済機能を備える。

 AI時代が進み、特に単純重複業務はいずれ機械に取って代われるが、そのポジションにいた社員のサバイバルはどうするか。ソトの厳しさを、ウチで体験・体得してもらうことが必要だろう。目指すところは、「いつでも会社を辞められる」力の育成だ。その力が身についたところで、社員は自ずと事業主へ移行する最後の一歩を踏み出すだろう。

 そうした機能を盛り込んだ「第三の道」を、企業が用意すべきではないだろうか。タニタ1社だけの話ではない。すべての日本企業に呼びかけたい。

   
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