立花聡の「世界ビジネス見聞録」

2021年9月6日

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立花 聡 (たちばな・さとし)

エリス・コンサルティング代表・法学博士

1964年生まれ。早稲田大学理工学部卒。LIXIL(当時トステム)東京本社勤務を経て、英ロイター通信社に入社。1994年から6年間、ロイター中国・東アジア日系市場統括マネージャーとして、上海と香港に駐在。2000年ロイター退職後、エリス・コンサルティングを創設、代表兼首席コンサルタントを務め、現在に至る。法学博士、経営学修士(MBA)。早稲田大学トランスナショナルHRM研究所招聘研究員。

 
 日本にはびこる「なぜ」の正体とその対処を、人事・労務の専門家の立場から解説した著書『「なぜ」から始まる「働く」の未来』を9月20日に上梓する立花聡氏に、新型コロナウイルス禍でも戦い抜ける秘策を解説いただきました。

 飲食業界は、経済の好不況や新型コロナウイルス禍のような災厄により浮き沈みが非常に激しい業界といえる。そのなかでもいささか不思議に思える現象がある。過去十数年、日本以外の特に東南アジアを中心に観察した結果として、どんなに不況でもどんなに客が来なくても、潰れることなく、しぶとく経営を継続している店には、共通した特徴があることが分かった。

コロナ禍も超えられる秘策が秘められている「軒廊(カキルマ)」(筆者撮影、以下同)

野生のBCP「騎楼モデル」

 マレー半島南部ジョホール州のバトゥパハ。

「漆喰の軒廊のある家々でつづいている。森や海からの風は、自由自在にこの街を吹きぬけてゆき……」

 金子光晴氏が著書『マレー蘭印紀行』(中公文庫)でバトゥパハの町並みをこう描写している。

 「軒廊(カキルマ)」とは馴染み薄い言葉ではないだろうか。中国南方に起源する建築様式で「騎楼」ともいう。台湾では特に多く見られるが、建物の2階部分が歩道へせり出して、歩道を覆う屋根となる。つまり、建物の道路に面する1階部分を、通行人が通れるように半屋外にし、同一様式の建物がリンクハウスとして連続することで、屋根を持つ歩道空間が生まれる。

建物の2階部分が歩道へせり出して、歩道を覆う屋根となる

 騎楼型建築の共通点は、「商住両用」である。1階部分は店舗、2階や3階は私用空間の住居として使う。公道に接している開口部のシャッターを下ろせば、建物全体が完全な私用空間になる。

 テレワークやリモートワークでなく、完全オンサイトのライフワーク(職住)一体化である。通勤時間ゼロ、家族ビジネスであるがゆえに勤務時間は柔軟性に富み、シフト交替も自由自在。客が殺到すれば、室外にも客席を増設して一族総出、1人多役で対応する。

 店舗は自宅兼用となっているので、賃貸料は発生しない。これがいちばん大きい。飲食業にとって賃貸料は大きな固定費の1つである。新型コロナのような不況期ないし営業中断期に差し掛かると、売り上げが激減し、場合によってゼロにもなるが、固定費は従来通りにかかってくる。現に賃貸料が重くのしかかって店が潰れるケースも多発している。

 もう1つは給料、人件費。客が入らなくても、売り上げが立たなくても、従業員を雇っている以上給料を払わなければならない。完全休業になった場合、一時帰休やリストラができるが、営業継続しながらも客がほとんど来ない場合はもっとも厄介だ。売り上げゼロでも、給料支払いは発生する。

 しかし、騎楼店舗のほとんどが家族経営であるから、晴耕雨読モードで対応できる。雇用するとしても、皿洗いなどのアルバイトでトレーニングの必要はなく、簡単に雇ったり解雇したりすることができるから、その分の人件費は実は、固定費でなく、変動費なのである。

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