「働き方改革」と言われてきたが、コロナ禍によって図らずも多くのビジネスパーソンが働き方を変えざるを得なくなった。しかし、コロナ禍が明けたらどうだろうか? 「プレミアムフライデー」のように、いつの間にか忘れられる(これまでの働き方に戻る)予感がしてならない。それは、「何のために働き方を変えるのか?」と、問うことなく、働くこと自体が目的化しているからだ……。
働く目的は何か? それは、やりたいことすること――。「世界一やりたいことができる会社なる」というスローガンを掲げるオアシスライフスタイルグループ(東京都港区)。このたび、社長の関谷有三さんが『なぜ、倒産寸前の水道屋がタピオカブームを仕掛け、アパレルでも売れたのか?』(フォレスト出版)を上梓した。
まず、関谷さんの経歴を紹介する。1977年栃木県生まれ。国立中学を経て県内トップの進学高校に進むが、男子校だったこともあり「女の子にもてたい」という思いから、ヤンキーグループに入り、勉強はおろそかになる。それでも「大学はとにかく東京に」という思いで浪人後、「響きがオシャレ」という理由で成城大学に入学。イベント系サークルを主宰して大フィーバーを巻き起こした。
大学卒業を控えて、「このままイベント屋にでもなろうか」と考えていたとき、父親から「体調が悪いので、帰って水道屋(従業員5人)を手伝ってくれ」と頼まれ、「これまで好き勝手やることを許してくれた親への恩返し」という気持ちで渋々引き受けた。「絶対、実家に帰ることだけは嫌」と思っていた選択をあえてした。3年間はノイローゼになるほど苦しんだが、転機が訪れた。
地元の宇都宮大学と提携して「オゾンによる水道管のメンテナンス」という新技術を開発。経産省の事業にも採択され、「栃木の若きカリスマ」として復活を果たす。その後は、この技術を引っ提げて東京で起業。全国展開に成功すると、今度は台湾の「春水堂」を日本に誘致してタピオカブームを起こした。さらに、「スーツに見える作業着」というコンセプトでアパレルに参入し、スーツの売れない時代に「WWS=WORK WEAR SUIT」が異例の大ヒットとなり、「令和のヒットメーカー」という異名をとった。
〝IT起業家〟などと言われるように、ソフトウェアを活用したサービス業で起業する例は山ほどある。ところが、関谷さんのように「水道メンテナンス」「タピオカ」「スーツ」といったハード(リアル)で、しかもどれも全然関連のない事業で成功する起業家は多くはない。
こんな起業家の話であれば、多くの人が話を聞いてみたいと思うのは当然だし、「本出せば売れる」と考える編集者も少なくない。
「実際、これまでいくつかの出版オファーは頂いていました。ただ、〝コロナ禍〟というタイミングが決め手になりました。私自身がそうだったように『逆境を乗り越えよう』というメッセージを、より多くの人に伝えたいと考えたのです」(関谷さん)
本書の1章、2章は、関谷さんの学生時代、そして水道、タピオカ、スーツ事業の軌跡が描かれる。結果だけ見れば輝かしいが、プロセスを追っていけば「苦労の連続」である。記者のような一般サラリーマンからすると、「真似することはとても無理」「関谷さんは別次元の人」と思ってしまう。
ところが、3~5章では「マインド編」「スキル編」「リーダーシップ編」と、これまで関谷さんが取り組んできたことが、いわば一般化する形で整理されている。
「考えると悩むは違う」
=答えがないことを悩むのではなく、行動しよう。やってみて判断しよう。
「アドバイスは実行してみよう」
=せっかくもらったアドバイスに対して、自分には合わないと捨てるのではなく、実行してみる。
「ハッピーエンドになるかどうかは自分の選択次第」
=極端に言えば、「やーめた」と諦めなければ失敗ではない。やり続ければ、いつかは成功できると信じる。
「どんな環境だったら、成長できるかは考えない」
=他人と比較しない。
「TTP(徹底的にパクる)」
=仕事のできる人、尊敬できる人のことは徹底的に真似をする。
などなど、関谷さんの行動指針が要するに「プラス思考」であることが伝わってくる。そうであれば、ここで言われていることが全て実行できなくても、「自分でもこれならできる」ということから「まずは初めてみよう」、そんな気持ちにさせてくれるのだ。
例えば、「笑顔、挨拶、感謝、元気」。これを半年でも1年でも愚直にやり続ければ、その人の魅力はグッと上がるという。言われてみればその通りで、いつも笑顔を絶やさず、挨拶も欠かさず、感謝の気持ちを人に伝え、元気な人を嫌になることはない。