必要な「地方出身者を育成」という視点
これらのことから、東京圏の若い世代の人口の源泉は一定程度が地方によって担われており、政治的意思決定における定数が現住地によってのみ決定されることは、地方の基礎教育などを通じた人材育成の貢献を十分に反映できない問題点を持っているといえるのではないだろうか。ただし、これまでの国家予算の配分は、必ずしも東京圏を優先した配分とはいえず、地方への公共投資、社会保障などを通じた再分配の側面があったことも確かである。
以上を総合すると、地方で出生した人口は、進学就職などで東京圏をはじめとした大都市圏に流入し、労働力としての役割を担ってきた一方、これらの大都市圏からの国税収入を地方交付税や公共投資などで地方に再分配するという、日本国内での「結果としての共生関係」といえる歯車が回ってきたといえる。しかし、人口減少、超高齢化時代で地方の人口や出生率も減少すれば、東京圏への人口供給も困難となり、逆に地方も再分配を受けにくくなるという共生関係の終焉が懸念される。
ウイズコロナで変わった人口移動と人々の意識
新型コロナウイルスの流行は、東京圏への人口流入にも大きな影響を与えている。コロナ禍以前の2019年では、東京圏への人口流入は14.6万人であった。しかし、コロナ禍に見舞われ、社会経済活動や都道府県間の移動が大きく制約された20年では、東京圏への人口流入は9.8万人と大きく減少した。
20年4月には初めての緊急事態宣言が出され、「人と人との接触を8割削減」することが求められた。飲食、観光、交通業は大きな収入源にみまわれたが、われわれの「生活が8割縮減」するという事態にはならなかった。金融機関も営業が継続されていたし、大学ではリモート講義、企業でも在宅勤務、オンライン会議でこの時期を乗り切った。
ここで分かったことは、通常の社会活動のうち、一定割合は、活動と情報とを切り分け、情報部分をインターネットなどのICT技術を活用することで、われわれの社会生活の一部を維持、代替可能であった面も発見できたということである。コロナ禍によって偶発的に始まったリモートワークや仕事のデジタルトランスフォーメーション(DX)は、地域を移動しなくとも、価値を生み出す活動が可能なのではないかということをわれわれに気づかせてくれた。
冒頭に紹介した内閣府報告書(p.36)では、2021 年1月 15 日~20 日に行った「新型コロナウイルス感染症が地域の働き方や生活意識に与えた影響に関する調査」の結果が示されている。そこでは、東京圏で、地方への移住に対する関心のある者の比率が年齢別にとりまとめており、その結果によれば「20 代では 51.7%と半数以上を占め、次いで 30 代(46.2%)で高く、若い世代の関心が高いとみられる」と指摘している。
いずれの世代でも感染症の流行後に地方移住に関心が高まった回答者が半数近くに上る。さらにコロナ禍で地方移住を検討するようになった理由として、同調査では、「リモートワーク等によって職場から離れて仕事ができる」(26.6%)が最も多く、次いで「地方の方が新型コロナウイルス感染症のリスクが低い」(20.9%)、「家族と過ごす時間や趣味の時間を、これまで以上に大事にしたい」(19.6%)等が挙げられている。(p.35)