したがって、コロナ禍を契機として、リモートワークで働けるのであれば、地方への移住に関心の高い人が増えつつあることが示唆される。いっぽう、同じ内閣府報告書(p.39)では、地方での就労の障壁となっている点についてパソナ「リモートワーク及び地方就業に関する意識調査」(調査期間 2020 年8月 11 日~20 日)の結果にもとづき、第1に「年収が下がる」こと、第2に地方では「キャリアを活かせる仕事が無い」ことが挙げられている。
アフターコロナでの新しい共生関係の模索
そこで、地方創生のために東京圏の企業を退職して地方にU、Iターンをするのではなく、東京圏の大企業に勤めながら、地方でのリモート勤務ができる業種であれば、移住者は賃金が下がらず、地方の安い物価や住居費で暮らすことができる。
逆に地方にとっても人々の居住拠点が地域内にあれば、地方で消費し、地方で住宅を購入する経済効果を取り込むことができる。つまり、1人の人間がウイークデーの9時から5時までは都市型勤労者、アフターファイブや休日は地域の生活者としてダブルで存在できるということになる。
このように、地方でワークライフバランスや環境と調和したスローライフが実現できれば、就業と子育ての両立も道が開けて、地方にいたまま東京圏に労働力を提供できる一方で、東京圏から地方圏に賃金が流れるという、政府による再分配ではなく、民間市場経済分野を通じた新しい東京圏と地方の共生関係が構築される期待が持たれるのではないか。
もちろんすべての業種のすべての仕事がリモートで完結するわけではないため、リアルの活動はゼロにはできない。そこにはリモートでやりとりできる情報だけではなく、モノづくりによる空間的・地理的制約が残るであろう。しかし、本シリーズ第2回で触れた通り、日本経済は既に非モノづくりの第3次産業中心の社会へとシフトしてきている。
ここから地方と都市の人の流れは、進学や就職のタイミングで地方から都市に移り住むという一方向的なものから、地方に住みながらリモートとリアルを融合させながら都市で学び働くといったダイナミック(動的)で重層的な交流関係へと変わりつつあるのではないか。
こうした流れに合わせると、地方の住民にとっても所得や教育機会を得る意味で、東京圏に投資される意味を認めることになるし、東京圏の企業や組織にとっても地方に子育てや福祉、サテライトでのオフィスや教育拠点の整備のための行政支出を行う必要性とメリットが出てくる。今後は、政治的意思決定の重みの配分が、現住地人口に基づく選挙区割りを通じた、地域代表の性格の強いものから、国全体の問題解決という立場から国会議員を選べるシステムに伸長していくことが期待される。