〝非対面による接客〟を進められるようになってきたことから、原社長は大阪と東京・浅草にある舞台衣装専門の店舗を閉めることとした。ただ、それとほぼ同時に大阪に新たな店舗をオープンした。
新店舗は個室のある広い場所に設けた。個室は完全予約制にし、感染対策を施す「ウィズコロナ仕様」にした。リアルでしかできない接客や顧客の要望に応えていく。
「店舗を開いていると、『いつでもある』と思われて、待ち続ける状態になってしまうことがある。客の方はその後、忙しくなったりして忘れ去られていくことが多々あった。『いつなら会える』というやり取りができれば、好機を得る数が増えていく」と原社長は話す。閉店した東京・浅草でも、2カ月に1回などのペースでイベントを開催していく予定だ。
「困った時は原点に」を実践
今回取り上げた3人のコロナ禍での動きは、浮かび上がってきた需要を捉えているとも見えるが、それぞれの強みや起業時の想いを注いでいるとも言える。自らが愛し、大切に磨き続けていた車種の部品を商品として売り出す、築き上げてきた技術を社会が求める部分へ注ぎ込む、大切にし続けてきた「顧客との対話」に向き合う――。
「困った時こそ原点回帰」。そんな言葉が聞こえてきそうだ。未曾有の危機に直面し、藁をもつかむ思いでさまざまなものに手を出してきた人もいるかもしれないが、自らの本業は何か、社会になし得たいことは何か、そうしたものを今一度考え直すことも必要かもしれない。
月刊誌『Wedge』の人気連載「溝口敦のさらばリーマン」の過去の記事はWedge Online Premiumでも読むことができます。