2年ぶりの開催となった「CES(コンシューマー・エレクトロニクス・ショー)2022」。かつては家電の見本市だったCESも、電気自動車(EV)に代表されるように、自動車が電動化していくなかで、主役の座を占めつつある。今回のCESを取材した、ロサンゼルス在住のジャーナリスト・土方細秩子氏に、自動車(EVとGM)、フードテック、人工知能(AI)の4つをピックアップしてリポートしていただく。
AIは今やわれわれの生活の中に深く浸透している。その一方でAIが人間のように思考し、人間を凌駕する、というAI恐怖症もまた広がっている。
そんな中で、「AIはそれ自体が思考するものではなく、予言するものでもなく、人々の意見の行間を読み取り、分析し、状況を把握するものだ」という考え方で選挙予測やワクチン接種率、自殺の予防など社会のさまざまな問題に取り組んで注目を集めているカナダの企業が今年のCESに登場した。
Advanced Sybolics社は、Pollyと呼ばれるAIを開発している。そもそもPollyはカナダのオタワ大学研究者らが、ソーシャルメディアを通して人々の行動、思考を理解する、という方針で始められた。
開発のきっかけは自殺防止
ソーシャルメディア上に寄せられる膨大な書き込みの中から、社会問題をあぶり出す、という方式で、実際のアプリケーションとしてはカナダの北部、特に自殺率が平均より高い場所での自殺防止策として適用された。そして世界で初めて「自殺率を低下させる」AIとなった、という。
手法としては自殺の可能性が高いと考えられる書き込みなどをPollyが特定し、その周囲のサポート機能が事前に動く、カウンセリングを行う、などの対応策を講じることで自殺を未然に防ぐ、というものだ。
ただしPollyは統計や数学の専門家が扱うAIであり、カナダ国内では著名であっても国際的な知名度は低かった。カナダ国内ではテレビドキュメンタリーなどでも取り上げられ、CEOであるエリン・ケリー氏はカナダのテレビコメンテーターとしても活躍している。
こうしたテレビ番組の取り組みの一つとして、Pollyに選挙予測をさせる、という試みが行われた。Pollyの目的はビジネスユースであり、人々の反応などを、ソーシャルメディアを通してリサーチすることで、製品マーケティングなどに活かす、というもので、多くのAIがそうであるような世論調査が目的ではない。しかしAdvanced Sybolics社ではこの試みに同意、実際の選挙予測をPollyに行わせた。