2024年7月16日(火)

ニュースから学ぶ人口学

2022年2月9日

世界の事例から学ぶべきこと

 フランスの歴史人口学者であるエマニュエル・トッド氏も指摘するように、出生率は核家族世帯の伝統が長い北西ヨーロッパ地域で高く、権威主義的な非核家族世帯の伝統が支配的だった中・東欧や東アジアなどで低い傾向がある(『新ヨーロッパ大全 Ⅰ』藤原書店 、1992年)。日本のように直系家族世帯が基本的な家族制度であった社会が、工業化、都市化にともなって核家族化を進めていった時に、出産や育児においてより大きな困難にぶつかっていることを物語っている。それは、女性自身のライフコースに関する考え方を転換し、男性の家事・育児への参加に加えて、行政・地域の支援、働き方改革などによって、核家族の夫婦が子育てしやすい環境や制度を整える必要がある。

トッド氏は、「Wedge」2021年10月号のWedge Opinion Special Interview「中国が米国を追い抜くことはあるのか エマニュエル・トッド 大いに語る――コロナ、中国、日本の将来」でも、中国の人口減少や日本の人口施策の課題について語っている

 少子化に悩む中国では、一人っ子政策を転換して16年にすべての夫婦に2人目の出産を容認し、21年には3人目も容認した。しかし国民の出生意欲は強くない。21年の出生数は1062万人で1949年の建国以来最少であり、合計特殊出生率は日本よりも低い1.1〜1.2程度と推定されている。人口減少へ転換するのはもはや時間の問題だ。強権大国といえども、民衆の意識を第3子出生へ誘導することは容易ではない。

 社会を安定させるためには出生率を人口置換え水準まで回復させることは必要だが、少子化対策に求められる目標は出生率それ自体ではない。制度改革と男女の役割分担に関する意識変革を通じて、結婚や子育ての不安をなくし、未来に希望が持てるような状況を作ることが必要だ。その結果として出生率の回復に結びつくような支援を進めるべきだ。

 
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