2024年4月25日(木)

未来を拓く貧困対策

2022年2月9日

 子育て応援フードパントリーは、ひとり親などの経済的困難を抱える者に無料で食料などの生活必需品を届ける取り組みとして、埼玉県では19年頃から広がってきた。「必要とする子どもたちに届かない」というジレンマを感じる子ども食堂の運営者らによって発案された取り組みは、近年、急速に広がりつつある。

 埼玉県の運営者の多くが参加する「埼玉フードパントリーネットワーク」には、22年1月23日現在、埼玉県内30市町の58団体が加盟している。利用する家庭は埼玉県内だけで3500世帯を超えて、今なお増え続けている。

配布される食料品(「フードパントリーみらい」提供。提供企業の意向で一部修正)

 その特徴は、①企業や市民の多様な主体によって運営されていること、②民間団体が主導して「点」から「面」の活動に発展していること、③子どもの貧困を可視化したことの3点を挙げることができる。

「専門職」「プロ市民」ではない人による生活困窮者支援

 「特別なことをしている訳ではないんです」。埼玉トヨペットのママ友支援課/社会貢献課でフードパントリー活動を支える橋岡直美さん(53歳)は、戸惑った口調でこう答えた。埼玉トヨペットでは、障害者の就労支援や子どもたちの社会活動など、地域で暮らす人々への支援に取り組んできた。今回のフードパントリーもその活動の延長線上にあり、珍しいことをしている訳ではないという。その反応をみて、筆者は逆に新鮮な驚きを覚えた。

 貧困対策、あるいは生活困窮者支援という言葉は、多くの人にとっては馴染みのない世界である。イメージにあるのは職員の冷たい対応や不正受給のイメージが色濃い生活保護制度や、ホームレス状態にある人たちを対象とした炊き出しだろうか。

 新聞やテレビなどのメディアを通じてしか知識がない、実際に自分の身の回りには接点がない。7人に1人の子どもが、あるいはひとり親の半分が貧困状態にあると言われても、実感が湧かない人が大半ではないだろうか。

 実際のところ、ほんの少し前までは貧困対策は公務員でもごく限られた職員が関わるもので、公共政策全体のなかでのウエイトは大きいものではなかった。ボランティアで活動している人たちも、社会問題の解決に向けて、あるいは貧困に苦しむ人たちを助けるのだという高い志をもって関わる人が多かった。「開かれた活動を」というキャッチフレーズは掲げられていたものの、実際に参加しているのは市民活動家や弁護士、労働組合や政党関係者、あるいは当事者といったメンバーが中心で、一般の人にとってはとっつきにくいものだった。

 それが、障害者や小中学生の社会参加活動の支援と同じレベルで取り組まれるようになってきている。運営メンバーからたびたび聞かれる言葉がある。「ひとり親が対象というから、どんな人が来るのかと思っていた。普通の、どこにでもいる人ですよね。街ですれ違っても、気にも留めない。でも、利用希望者は毎回増え続けているんです。どこにいたのだろうと思うくらい」。


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