「ギョーザ」は、4個ずつ3つのトレーに分けて包装されており、従来品ではこのうちひとつのトレーが、調理に使う水の計量カップを兼ねていた。焼く個数に関係なくこのカップで10ccの水を測ってフライパンに注ぐ手順だった。パッケージにはイラストとともに、水の測り方や火加減などを詳しく表示していた。
ところが、15人ほどの調査協力者の調理は、川口らにとって驚きの連続だった。ほぼ共通していたのは、水の量を正確に測らないことだった。多く入れ過ぎて途中で水を捨てる人がいた。入れ過ぎは、全体がふやけた状態になって食感が落ちる。焼きの途中で、フライパンを揺する人もいたが、これだと焼色の付いたパリッとした仕上げは難しい。さらに、トレーに入った餃子をラップし、電子レンジにかけようとした豪快な人もいた。さすがにこれにはスタッフが待ったをかけた。
調理を左右する水の量を、自己流で加減してしまう人が大半――そういう実態が明らかになった。現実を踏まえ、川口や研究開発部門の研究員は「ゼロベース」で対処法を討議していった。そうしたなかで、一人の研究員から水なし調理が提案された。「水を測るという行為を排除すれば、調理のばらつきは相当解消される」という明快な理屈だった。
調理の実態を観察して生まれた「羽根の素」
当初は実現性に不安を抱いた川口だったが「発想を転換しないと新たな価値はつくりだせない」と、チャレンジを決断した。そこから1年余りに及ぶ試作と試食の日々が始まった。試作は2週に1度のペースで、その都度決めた開発テーマに沿って進めた。完成に至るまでには50種余りの試作品ができたという。「前の試作より、内容が悪化するという後ずさりも何度かあった」という。試食が1日に100個を超える日も少なくなかった。
油も水もなしで調理できるのは、新たに「羽根の素」を餃子本体に付け加えたからだ。水と油に独自の成分を配合したもので、冷凍の状態では餃子の底面や一部側面に付着させている。加熱すると羽根の素は溶け出し、適度な水分などを供給する。焼き上げると底部にはパリパリ感のある羽根ができる。こうした製造法は特許出願した。
新たな焼き方となるので、羽根の素の開発にあたり留意したのは「誰が焼いてもブレの少ない焼き上がり」、つまり調理の安定性や再現性だった。同時に、調理は簡単になっても従来品より味が落ちるのではリニューアルの意味はなく、従来品を上回る味の追求も徹底した。その結果が、豚肉の比率アップなどレシピの微調整となった。