2022年7月5日(火)

お花畑の農業論にモノ申す

2022年3月1日

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渡辺好明 (わたなべ・よしあき)

新潟食料農業大学学長

1945年生まれ。68年3月、東京教育大学文学部卒業し、同年4月に農林省入省。水産庁長官、農林水産事務次官、内閣総理大臣補佐官、東京穀物商品取引所理事長などを歴任。2018年4月に新設された新潟食料農業大学で学長に就任した。全国農地保有合理化協会会長も務める。

 こうした戦火が収まるまでの一時的渋滞について、輸入国は、まず備蓄の放出などにより平常化までの時期を待つことになる。日本の穀物備蓄制度と同様の扱いだ。日本の制度は、一時的な物量ショートへの対応策、たとえば、ミシシッピ川の凍結、ガルフ港湾荷役労働者のストライキ、南北半球の不作・豊作の一時的調整などが発動の対象で、いずれ正常に落ち着くことを前提に仕組まれている。

 どの輸入国もそうだと思うが、次の手段として、輸入先国を転換する方向に走るだろう。産油国など経済豊かな国による「玉突き現象」、ウクライナ産を米加豪産へ振り替える。CBOT先物取引の状況はその反映でもある。日本の小麦、トウモロコシ、大豆の買い付けも、当面、物量は確保できるだろうが、高価格の小麦をつかまざるを得なくなる可能性がある。

 その点で、われわれ日本人は、リスクへの感覚が鈍くなっているのではないか。よい例が小麦である。「国家貿易」の傘の下にあって、「リスクは全て国がとる」でよいのだろうか。

短期、中長期の食料安全保障「治に居て乱を忘れず」

 私たちは、1972~78年の穀物ショック、オイルショックを経験している。そこから、小麦、飼料穀物、大豆の「備蓄制度」とその運用も築き上げた。79~89年の「ソ連のアフガン侵攻と制裁」も見てきている。短期の対応策は、今回の原油価格高騰対策で、量の面での安全保障は効果的である。

 しかし、問題は、ことが長期に及んだ場合である。国土面積が狭く、高度な食生活の下で輸入も多い日本では、長期の危機に耐える体制が十分なのかどうかというと、心細いといわざるを得ない。「食料・農業・農村基本法」でも、食料安全保障のポイントは、①国内生産の確保、②輸入先の多角化(リスクヘッジ)、③備蓄の整備(短期対応)と規定されている。この際、②と③ではカバーできない長期に耐える体制の整備を本気で実施すべきときだ。

 そして、長期の本格的な対策は、優れた社会資本である農地、とりわけ水田をよい状態に維持し、フルに使う。5月の連休に田植えをする必要はない。コメの裏作に麦を栽培して、6月に収穫(麦秋)、耕地利用率を2倍にする「米麦一貫体系」こそ自給力向上のポイントである。「米ができない水田に完全転換=畑地化する」よりも、「米も他の作物もできる汎用水田化」こそが、真の食料安全保障につながるのではないだろうか。

 水田の維持・整備は、わが国の「食料安全保障」と「地域社会安定保障」そのものである。

 なお、「危機における実際の対応・仕組」を広く国民に浸透させることも大事だ。いざというとき、家庭レベル、地域レベル、そして国家レベルで、どんな対応をするか、できるか整える。

 たとえば、国、地方公共団体は1週間は出動できない、家庭備蓄で対応(自助)、次いで、地域レベルの共助、そして、本格的な公助で対応する。これを、スイスのように、国民に対して明らかにしておく。日ごろからの備えが大事であり、これが「治にいて乱を忘れず」とも、「常在戦場」ともいうではないか。

  
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