2022年6月30日(木)

お花畑の農業論にモノ申す

2022年3月1日

»著者プロフィール
閉じる

渡辺好明 (わたなべ・よしあき)

新潟食料農業大学学長

1945年生まれ。68年3月、東京教育大学文学部卒業し、同年4月に農林省入省。水産庁長官、農林水産事務次官、内閣総理大臣補佐官、東京穀物商品取引所理事長などを歴任。2018年4月に新設された新潟食料農業大学で学長に就任した。全国農地保有合理化協会会長も務める。

世界の穀物生産・価格の動き 

 穀物生産の総量は、27億~28億トンだが、貿易量は5億トン、新興国での畜産の飼料用需要、エネルギー向け需要の堅調さの下で、価格は豪州、欧州が不作であった08年より前の水準を上回っており、在庫水準も「ほぼ必要なレベル」の線上にある。

 ロシア侵攻時の2月24日現在の価格水準であるが、シカゴ商品取引所(CBOT)の先物価格(5月ぎり)で、小麦が1ブッシェル(約27キロ)当たり9ドル60と高水準だが、過去の最高水準「08年の12ドル80」には達していない(この年は、オーストラリアの大干ばつと欧州の天候不順が重なる)。

 なお、米の世界生産量は約5億トン、輸出入量は4000万トン程度で貿易比率は小さい。大豆の生産量は3億6000万トン、貿易量は1億7000万トンである。

戦略物資としての穀物・大豆

 1972~73年にかけて、旧ソ連が大量の穀物を米国から買い付ける行動に出たのをきっかけにして、物価狂乱が始まり、さらにオイルショックが追い打ちをかけた。結果的には「国際的な調整インフレ」だったのだが、その際には、穀物が戦略物資、外交上の武器にもなりうることが認識された。

 その後のソ連のアフガン侵略戦争では、大輸入国のソ連に対し、大輸出国の米国が食糧制裁を加えることを考慮したが、実効は上げられなかったといわれている。旧ソ連が輸出国に転じることになり、戦略性は薄れたかに見えるが、ロシアは、輸出枠の設定、輸出関税、積出港の管理などで戦略物資化を狙っているようだ。

穀物の用途拡大と価格関係の複雑化

 穀物・大豆の用途は拡大してきている。食用・油糧用、飼料用のほか、近年、バイオマスエタノール用などエネルギー物資とも競合・連携関係にある。バイオ燃料の混合率を示すE10(10%混合)とかE20(20%混合)との用語もごく一般的になった。

 米国のシェール・オイルも加わって、原油市場とも競争の関係にあり、食料の需給・価格も複雑な動きになってきた。食用分野でも新規用途が次々に開発されている。

 こうした動きは、農産物の需給調整の幅を広げ、農産物価格の維持を図る手法としても使われるから、農産物市場の先を読むのが難しい時代になった。ここは、商品先物取引をしっかりと機能させることで対応していくしかないだろう。季節相場、天候相場、戦争相場、国際インフレの到来などともいわれるが、商品の先物市場は、多くの人々が参加しているだけあって、自らのリスクをかけながら、よく先行きを読んでいると思う。

 コメは、貿易比率が小さいが、輸出入を伴う主要穀物の一つであり、わが国における生産と需給・価格は、国際情勢に無関心ではいられない。さらに、地球温暖化対策のカギである「カーボン・ニュートラル」が進んでくると、また新たなプレーヤーの参入で、穀物・大豆の需給・価格関係は一層複雑になってこよう。

ウクライナ侵攻による影響

 日本の農地の10倍もある農村地域に戦火がおよべば、生産は低下し甚大な影響が生じる。そこまで行かないとしても、この夏に向けた収穫作業、国内の穀類を乾燥・貯蔵・調製する大型倉庫である「カントリーエレベーター」、鉄道・トラックなどの輸送、さらには、オデッサ港の大穀物調製保管施設(ポートサイドエレベーター)と荷役は制約されるであろうから、当面の輸出は激減するであろう。

関連記事

新着記事

»もっと見る