レッドラインを嫌うバイデン
前述の通り、バイデン大統領はウクライナ上空の飛行禁止区域の設定および米軍兵士派兵を拒否している。加えて、ロシアに対してレッドラインを宣言しない。
ホワイトハウスのジェン・サキ報道官は「ロシアが化学兵器や生物兵器をウクライナ国民に使用した場合、レッドラインになるのか」という記者団からの質問に対して、「大統領はウクライナに米軍を派遣する意思はない」と答えた。つまり、ロシアの化学・生物兵器の使用はレッドラインにはならないという意味である。
さらに、サキ報道官はホワイトハウスではレッドラインという言葉の使用を避けていると率直に語った。なぜ、バイデン大統領はレッドラインを引かないのか。主として以下の3つの理由がある。
第1に、オバマ元政権における経験がバイデン氏にブレーキをかけているとみてよい。バラク・オバマ元大統領はシリアのアサド政権の化学・生物兵器使用をレッドラインと規定し、宣言したのにもかかわらず軍事攻撃を見送った。
バシャール・アル・アサド大統領は反体制武装勢力や自国民の子どもに化学兵器を使用した。軍事攻撃の回避でオバマ元政権に対する信頼が揺らいだ。バイデン大統領は同様の事態に陥るリスクを避けたいのだ。
第2に、バイデン氏はウラジミール・プーチン露大統領に対してレッドラインを宣言しても、同大統領が簡単にそれを超えると計算しているフシがある。ロシアは米国が資金を出してウクライナの研究所で生物兵器の開発を行っていると非難し、同国への化学・生物兵器使用のための口実づくりをしているからだ。
第3に、「レッドラインの罠」に嵌る可能性がある。レッドライン宣言のメリットは相手に圧力をかけることであるが、同時に自身が縛られるデメリットが生じる。
プーチン氏がレッドラインを超えれば、バイデン大統領はロシアに軍事攻撃を行わなければならない。仮にそうなれば、バイデン氏が懸念している第3次世界大戦勃発の可能性が一機に高まる。
結局、プーチン氏にはレッドラインは通用しないだ。