これらの人事制度改革の背景や意義について、同社人事総務部の小菅紀子次長は「近年、若手従業員を中心にキャリアに対する意識が多様化し、現行制度による『育成』の時間軸が、彼らが求める成長スピードに追い付いていないという危機感があった」と述べる。
さらに、22年4月からは管理職クラスを対象に、新たに「エキスパート職」制度を導入する。同制度では、希望する従業員の志向と適性に応じて、高度な専門性に基づいた専属の業務を与えられる。管理職となり部下のマネジメントを担うキャリアパスだけでなく、例えば、特定の国や地域、言語圏における専門的な商品のトレーディングなど、自らの経験やスキルを生かした新たなキャリアの選択肢となる。賃金は成果報酬の割合が増し、同じ役職クラスの標準的な給与モデルと比較して年収は0.75~1.5倍の幅で変動し、課長でも部長クラスの年収を得ることも可能となる。
「マネジメントか、エキスパートか、それとも事業経営か。〝個〟の強みを生かす仕事やキャリア、働き方を従業員それぞれと一緒に考えていきたい」
労働法を専門とする早稲田大学大学院法務研究科の島田陽一教授は「〝欧米型〟と一括りに語られるが、米国と欧州でさえ雇用に関する法律や文化は異なり、国の数、企業の数だけ制度がある。経営者・人事はまず『自社事業』『従業員』『社会』の三方が抱える課題を熟考し、制度の構築はその解決を目的とすべきだ」と指摘する。
従業員をどう育て、いかに生かし、彼らとどのような関係を築いていくか──。特効薬はない。だからこそ、企業は自らの置かれた環境を見つめ直し、その「問い」に対する自社なりの「答え」を用意すべきではないか。
日本型雇用の終焉──。「終身雇用」や「年功序列」が少子高齢化で揺らぎ、働き方改革やコロナ禍でのテレワーク浸透が雇用環境の変化に拍車をかける。わが国の雇用形態はどこに向かうべきか。答えは「人」を生かす人事制度の先にある。安易に〝欧米式〟に飛びつくことなく、われわれ自身の手で日本の新たな人材戦略を描こう。
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