東京電力管内の22日の太陽光の発電出力は正午にこの日最大の179万kWを記録した後は出力低下に向かう。同時刻の全ての電源の発電出力は4436万kWであるから太陽光の貢献率は4%に過ぎない。他方、その前日、天候が春の陽気で良好であった21日、太陽光は1256万kWもの発電出力で発電出力全体の40%を占めた。
前日には出力の40%を占め、まさに主力電源として振舞っていたくせに、翌日の需給が厳しい状況下では4%しか出力せず、電源確保に必死の送配電事業者を横目に涼しい顔をしていたというのが太陽光の現実である。わが国のエネルギーの安定供給のために太陽光の導入拡大を、などという主張はこうした現実をどのように考えるのか。
停電危機に対応できない再エネ
こうした現実を見ると、自然条件で出力が大きく変動する再エネの導入拡大を進めることのリスクについてやはり懸念せざるを得ない。肝心な時に10分の1まで出力が消失してしまうような再エネを導入拡大することが安定供給に貢献することはあり得ない。
10倍以上にまで導入を拡大すればいいのか? その場合、夏のカンカン照りの日は需要を何十倍も上回る出力となり、ほとんどの太陽光が出力抑制を求められることになるだろう。それは太陽光の稼働率を全体的に押し下げ、経済性を大きく悪化させる結果となり、われわれが負担するエネルギーコストを高騰させる。
そしていずれにせよ、夜が訪れると太陽光は一斉に発電を止める。その時、他の電源が引き継いで電力供給を支えなければならないのだ。性質として自立不可能な電源を主力電源とすることは安定供給上のリスクを増大させ、バックアップする電源は限られた時間のみしか運転できないことで低い稼働率となるために大幅に経済性が低下する。今後更に太陽光の導入拡大が進めば、こうした弊害は深刻な問題となってくるだろう。
もうひとつの再エネ、風力がその任を果たせるか? 昨年夏から秋にかけて欧州や中国北方地域で風が吹かず、各国で風力発電の出力が低下、電力不足に陥った。国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)を開催中の英国でも、会議では脱化石燃料を主張しながら、電力供給確保のため、急遽ガス火力の出力を大幅に拡大しなければならない羽目となった。
また中国でも9月下旬に全国の3分の2の省で実際に停電が発生する事態となったが、少なくとも東北地方の停電のきっかけとなったのは風力発電の出力が通常の10分の1にまで急落したことが引き金となったと報道されている。
3月22日は旧一般電気事業者の奮闘と公共心の高い国民の協力により、実際に停電を引き起こすことはなく乗り切ったが、最低気温マイナス4度であったあの日、本当に電気が来ず、暖房が止まる生命の危機があったことはもっと深刻に捉えるべきではないか。大容量の蓄電池が大量に導入できる状況になるまで(現実にそこまでの蓄電池のコスト低下は近い未来にはなさそうだ)、火力発電がなければ電力の安定供給が容易に失われる。その事実を改めて痛切に確認することとなったと言えよう。
「『化石燃料見直しの』バスに乗り遅れるな」
そもそも化石燃料が高騰しているからと言って再エネ拡大を押し込もうとするのは実際のところ世界の潮流にも逆行している。もちろん欧州連合(EU)の環境団体などはそうした主張をしているのかもしれないが、国家の電力供給に責任のある政府レベルでは、化石燃料の高騰は再エネ導入の急拡大を始めとする急進的な脱炭素政策による化石燃料への投資の減少が根本的原因としてあることを認識し、化石燃料政策を見直そうとしている。
上で述べた通り、昨年夏以降の風力の出力低下によるガス火力の出力拡大で、ガス価格は高騰、EUの平均卸売電力価格はウクライナ侵攻前の2021年第4四半期において既に前年同期比なんと5倍まで高騰していた。経済社会に与える影響は甚大で、EU諸国はこの時点で家計への給付金などを検討していた。この状況でウクライナ侵攻によるエネルギー危機が生じたわけで、EU諸国がなかなかロシアからの禁輸に踏み込めなかったのも理解できなくはない。