そのため今年2月2日にEUは「グリーンタクソノミー(環境志向の投資分類)」の最終案を公表し、天然ガスと原子力を条件付きながら含めることを決定した。オーストリアとルクセンブルクは強硬に反対し、ドイツは原発には反対姿勢を示したものの、天然ガスについては容認した。エネルギーの安定供給の重要性を改めて再認識した動きがEUでも始まっていることは明白であろう。
そしてウクライナ侵攻を受けて、ドイツは23年中に脱原発を実現するという従来の目標を見直す姿勢を明らかにした。とりわけ注目すべきなのは現在のドイツ政府は昨年の選挙で躍進した緑の党が政権参加している点であり、一貫して反原発を旗印としてきた緑の党の共同党首であるロベルト・ハベック副首相兼経済相(気候政策担当)が「原発稼働延長についてイデオロギーで否定はしない」と言及した点である。
その後自身の発言を否定したとも聞くが、国家の経済社会に責任を持つ立場となった以上、自身のイデオロギーに拘泥することなく国民にとって最善の政策を考える姿勢は称えられるべきであろう。
まさしく、再エネ一本鎗の脱炭素政策を見直し、化石燃料と原発の役割の再定義がEUでさえ進んでいるのだ。かつてよく「再エネは世界の潮流、バスに乗り遅れるな」という主張を耳にしたが、いまは「『化石燃料見直しの』バスに乗り遅れるな」と主張したい。
見習うべき中国の変わり身の早さ
更に見習うべきは中国の臨機応変な姿勢である。中国は60年のカーボンニュートラル実現目標を20年9月に習近平国家主席の国連演説においてコミットしているが、その実、30年までは経済発展を優先し、化石燃料、とりわけ石炭を主要エネルギーとして活用し続ける方針である。
ただ、他方で再エネについては風力・太陽光ともに世界最大の導入量であり、太陽電池は世界生産の8割以上と中国のグリーン成長を牽引し、風力も将来的に特にアジア市場への輸出を狙っていることもあり、再エネを優遇してきたのも事実である。しかし昨秋の全国規模の深刻な停電発生という事態を受け、石炭の重要性を再確認する動きが見られる。
昨秋の停電は、石炭価格の高騰により経営が悪化していた石炭火力が、コロナ禍からの経済活動の回復によって急増した電力需要に対応できなかったために起こった。但し、その要因を更に詳しく見ると、石炭価格の高騰は過去5年間にわたって過剰生産能力の削減を旗印に進められた炭坑閉山政策があり、石炭火力も16年から19年にかけて新規発電所の建設認可を凍結するなど、供給力の冗長性を削減していた。
更には再エネの導入拡大のしわ寄せで、石炭火力の稼働率は近年急激に低下しており、そのため採算性が悪化、経営不振に陥っていた。それに追い打ちをかけるように、中国政府は20年に石炭火力の販売(卸売)価格と石炭価格とを連動させる制度を廃止したため、昨秋は、石炭価格が急騰する状況下、石炭火力は発電すればするほど赤字を増やす状況となった。発電所にとっては背に腹は代えられず、発電量を絞ったことで電力需給が逼迫することとなったのである。
要するに、中国政府は2010年代後半に石炭を冷遇する政策を進めてきたのであり、それが停電の根本的原因となったということである。但し、中国政府は停電が発生するやいなや、1~2カ月で2010年代後半の石炭冷遇政策の見直しを完了した。その変わり身の早さはわが国ではありえないスピードであるが、ダメージコントロールに見事に成功したと筆者は評価している。