2022年11月27日(日)

家庭医の日常

2022年4月25日

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葛西龍樹 (かっさい・りゅうき)

福島県立医科大学 医学部 地域・家庭医療学講座主任教授

1984年北海道大学医学部卒業。北海道家庭医療学センター設立および所長を経て、2006年から現職。英国家庭医学会 最高名誉正会員・専門医(FRCGP)。日本プライマリ・ケア連合学会監事。著書に『医療大転換 ─日本のプライマリ・ケア革命』(ちくま新書)など多数。

 「肺がん検診の必要性について知りたいんだね。K.T.君がそれに興味を持った理由を聞かせてもらえるかな」

 「はい、えーと、昨日の午後、S.K.さんの家へ訪問診療に行きましたよね。そこでS.K.さんの奥さんが肺がん検診をしようかどうかを先生に聞いていました」

 「そうだったね」

 「その時、僕は、40歳以上の人はみんな肺がん検診をすると思っていたのですが、先生は、S.K.さんの家族は奥さんも含めて誰もタバコを吸わないこととS.K.さんの奥さんの年齢が83歳であることから、あえて肺がん検診を受けない選択肢もあると説明していました。肺がんになるリスクが高くないから、ですね」

 「うん、その通り。年齢についてはまた別の判断なんだけどね」

 「はい、まずリスクについてなんですけれど、40歳以上でみんなが胸部X線検査をするというのはリスクを評価していないようにみえます。みんなに肺がん検診をする必要があるんだろうかって疑問に思ったんです」

 「なるほど。K.T.君、良いところに気がついたね。リスク評価は重要で、それが日本の肺がん検診の弱点、というか課題なんだよ」

事前のリスク評価が乏しい日本の肺がん検診

 2021年9月の『健康診断結果から生活習慣を改善するには』でも書いたように、スクリーニングとは「ある疾患によると考えられる症状がまったく無い人に対してその疾患に罹っている可能性がどの程度かを調べること」である。海外ではターゲットとなる疾患に罹患するリスクの高い人だけを対象に、臨床研究で有益性があると認められた検査をそれぞれに適した間隔で実施することが標準的だ。

 実はちょうど良いタイミングで、財務省財務総合政策研究所から『フィナンシャル・レビュー』の最新号(通巻148号)が先月末に刊行された。今回の特集は「過剰医療と過少医療の実態:財政への影響」ということで、私も経済・財政の専門家たちと共同で論文を執筆した。

 その中の論文『ケアの現場で陥りやすい過剰・過少医療を減らすために:EBM教育と患者中心の医療の役割』の中で、私は肺がん検診について書いている(46〜51ページ)。特に、海外の肺がんスクリーニングについての主要ガイドラインと日本対がん協会の取り組みを国際比較した表2(47ページ)はK.T.君の問題意識にも関連するので、彼に見てもらった。

肺がんスクリーニングの国際比較

 「ああ、日本と海外とでこんなに違うんですね!」

 「特にどこが違うかな」

 「まず海外では、検査は低線量CTです。日本の検診で実施している胸部X線と喀痰(かくたん)細胞診は推奨しない、と明記しているガイドラインもあります」

 「そうだね。リスクについてはどうかな」

 「海外では、年齢と喫煙歴で高リスクの人を絞ってスクリーニングの対象にしています。あ、年齢に上限と下限を設定しているガイドラインがほとんどですね。一方で、日本では喀痰細胞診の対象は喫煙指数(1日の喫煙本数×喫煙年数)600以上とリスクを考慮しているけれど、胸部X線には40歳以上というだけで他に条件はありません」

 K.T.君は、肺がん検診について以前はほとんど知らなかったそうだが、それだけに多くの発見があり、興味を持って学ぶことになった。

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