2022年11月27日(日)

家庭医の日常

2022年4月25日

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葛西龍樹 (かっさい・りゅうき)

福島県立医科大学 医学部 地域・家庭医療学講座主任教授

1984年北海道大学医学部卒業。北海道家庭医療学センター設立および所長を経て、2006年から現職。英国家庭医学会 最高名誉正会員・専門医(FRCGP)。日本プライマリ・ケア連合学会監事。著書に『医療大転換 ─日本のプライマリ・ケア革命』(ちくま新書)など多数。

日本に浸透していない患者との共同意思決定

 彼は、海外のガイドラインの多くでスクリーニングの介入の一つとして「共同意思決定」が含まれていることにも興味を持ってくれた。共同意思決定(shared decision making)とは「入手可能な最良のエビデンスを用いて医療者と患者が一緒に意思決定するアプローチ」のことである。

 何かの病気や健康問題に対してどう取り組むかを決めなければならない場面を想像しよう。そこで患者は、どういう選択肢(オプション)があるのか、そしてそれぞれのオプションを選んで進めた場合にどんな良いこと(有益性)と悪いこと(害)が起こりうるのかについて、自分を取り巻く状況と医療者が提供するエビデンスなどの情報を含めて医療者と一緒に考えることを促され、自分の好みを医療者へ伝え、自分にとって最適な進め方を選ぶことをサポートされる。

 共同意思決定は患者の自主性と積極的な参加を尊重する。共同意思決定の基盤にあるのは、医療者と患者が対等のパートナーであるべきだという考えだ。家庭医がその専門的アプローチとして実践する「患者中心の医療の方法」は、共同意思決定をより洗練された形で統合したケアの方法である。

 残念ながら、日本の医療現場ではまだ共同意思決定が広く浸透しているとは言えない。医学生の段階からこうしたアプローチを学ぶ機会を多く作ることで、それを実践する家庭医の指導医やスタッフと価値観を共有できるようになり、やがてはそれが医療人全体の文化になることを私は望んでいる。

エビデンスもガイドラインも変化していくもの

 「他に気づいたことはないかな」

 「えーと、先生の論文の臨床研究のエビデンスのところ(48〜49ページ)です。分析の詳しいところは難しくてまだよく理解できてないんですが、複数の研究をまとめて分析するときに、どの研究を選ぶかで全体としての結果なりメッセージなりがかなり変わっていくことに驚きました」

 「そうだね、かなり人間臭いよね。それぞれの臨床研究のエビデンスがどんな意図をもって誰のために生み出されたのかにも注意しながら、目の前の患者さんにどうやって適用したらより良いケアになるのかを考えるのが僕たち家庭医の役割なんだ」

 K.T.君はまた一つ重要なことに気づいてくれた。臨床研究のエビデンスは固定したものではない。次々と発表される新たな研究結果で変化していく運命にある。だから、エビデンスに基づいた診療ガイドラインも発表された途端に古くなっていく。変化に対応して更新し続けなければ、診療現場で古いものが参考にされて、かえってケアの質が落ちる危険がある。

 例えば、米国予防医療専門委員会(USPSTF)は2021年に肺がんスクリーニングのガイドラインを発表したが、これはUSPSTFが13年に発表していたガイドラインを更新したものである。

 13年で推奨していたスクリーニングの対象「55歳から80歳で30 pack-year(1日の喫煙箱数×喫煙年数)以上の喫煙歴のある人で、現在喫煙中または禁煙してから15年未満の人(A-55-80-30-15と略記)」は、21年の推奨では「50歳から80歳で20 pack-year 以上の喫煙歴のある人で、現在喫煙中または禁煙してから15年未満の人(A-50-80-20-15と略記)」に変化している。

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