2024年4月20日(土)

お花畑の農業論にモノ申す

2022年5月9日

江戸時代から続く食品偽装と、そのご三家

 アサリは、農水省の全国調査(2021年10~12月)でも、流通量の8割が国産・熊本産と表示されていた。実態は輸入量が8割以上。このことで思い出すのは、ほぼ同じ割合のウナギである。

 ウナギは「江戸時代」からの古い歴史を持ち、川柳も、「江戸ならば江戸にしておけ旅鰻」、「旅鰻化粧につける江戸の水」と、「江戸前信仰」を風刺している。

 歴史をひも解いてみれば、偽装表示のご三家は、①牛肉、②コメ(コシヒカリ偽装)、③ウナギであり、それに続くのが、ウナギ以外の水産物、貝類、なかでもアサリ、いまはシジミだろうか。

 代表的なのは、①「ニセ牛缶事件」(1960年)である。「牛肉の大和煮缶詰」が実は「クジラ肉」で、主婦連合会が買上げ調査したところ、数多くの事例が、「馬肉が牛肉に化けていた」、つまり、価格差を悪用したのである。

 当時は、経済の高度成長の下で、消費者に「高級願望・志向」が強く、業界のコンプライアンスもいい加減なものだったし、そもそも、商品の内容を正しく表示し伝える商習慣もなかった。果汁の入ってない飲料を「ジュース」とする表示も挙げられる。

 「高級願望・志向」は、古くは「舶来品信仰」「江戸東京物へのあこがれ」にもつながっている。ついで、②コシヒカリの詐称、一時は、コシヒカリの流通量が生産量をはるかに上回り、コシヒカリの古紙袋がいい値段で売れるとさえいわれた。こちらは、食管の配給制度の下で、希望する良品種の米が手に入らないことからくるダマシであり、「格上混米」の慣行もあった。こちらは、統制経済・食管制度の弊害である。

 そして、③がウナギの「江戸前信仰」、今日に例をとれば、産地移動した「浜名湖産」の「銘柄信仰」である。

 アサリ偽装は昨日今日のことではない。福岡、佐賀、鹿児島、山口などでも頻繁に、毎年のように指導・公表がなされている。根は深く、流通の基本構造は簡単に変わらない。指摘されながら事実上放置してきた行政の責任は重く、今後は、「水産物独自のトレーサビリティ法制度の創設」や命令権の実際の発動や罰則強制も必要になるのではないか。

 なお、最近において、一時よりも牛肉、コメの偽装表示が少なくなってきているのは、①牛(牛肉)トレーサビリティ法、②米トレーサビリティ法、③JAS法などの取組みと科学技術・分析の成果と考えられる。食品などの流通経路を追跡するシステム(ブロックチェーン、QRコード活用など)を提供する会社も出てきており、そこでの目標も「ウナギや米」と言っている。偽装対策が企業の儲けどころとは情けない。

いびつに進んだ国産信仰への移行

 歴史的にも見ても、産地偽装が起こる要因は「① 消費者をだまして利得を得る」というものが多い。この舶来信仰、銘柄信仰が国産品志向に移行したエポックは、2001年発生の牛海綿状脳症(BSE)牛肉詐称買上げ事件と、それに続く08年の中国製の毒入り(メタミドホス)冷凍餃子事件、そして、事故米(特に輸入米)の転売事件だ。

 これらにより「食の安全・安心」がクローズアップされ、流通監視(トレーサビリティ)の法整備と「国産信仰」=国産なら安心・安全の観念が広がった。加えて、食料安全保障など、JAグループの運動も大きく作用している。しかし、「国産品は必ず安全で、輸入品は安全ではない」と言い切れるのだろうか。当時は、国際規格や欧州連合(EU)、米国の厳しい基準にまでは思いが及ばず、また、かつての「地元の食品を食べると体によいが、他の地域の食品を食べると体に悪い」とする「身土不二(しんどふじ、仏教用語では『しんど・ふに』)」運動も思い起こさせて、この時期に「国産品志向」が高まったと考えられる。


新着記事

»もっと見る