2024年12月6日(金)

冷泉彰彦の「ニッポンよ、大志を抱け」

2022年5月30日

 例えば、現在進行形の問題として、ゼロコロナの行き詰まりで中国からの供給が停滞する、日本からの汎用半導体の供給がスローダウンする、あるいは物流が混乱するといった問題に国際経済は直面している。では、こうした問題への「より良い備え」とは何だろうか?

 また、各国で個々の私企業が活動する中で、IPEFによる政策が効果を発揮した結果として、「すみません。2カ月後に火災が発生しそうです」などというワーニングが事前に出てくる筈はないし、市場の側についても、事前に「3カ月後に猛烈な需要の爆発が起こりそうです」などという予知がされるなどということは考えにくい。

 百歩譲って、「万が一」のために生産や物流のインフラを二重にしておくのが良いとしよう。だが、本当に二重にした場合には生産設備は「過剰」となり、コストが重くなったり、不良資産化する可能性がある。下手な運用をすれば、自由経済の活力を奪う危険もある。

 もちろん、脆弱な部分を見抜いて対策を事前に打てるケースもないわけではないだろう。だが、仮にそうだとして、各国政府が「規制や監督の強化」として「脆弱性の摘発」を行うのが良いとは思えない。民間は、独自のノウハウと保険によるリスクヘッジなど、出来ることは既に行なっている。そんな中で、改めて理念を掲げる意義は、分かりにくい。

中国なしではハードルの高い脱炭素

 3点目が最も問題だ。

 「パリ協定の目標及び我々の国民と労働者の生活を支援する取組に沿って、我々は、経済を脱炭素化し、気候の影響に対する強靱性を構築するために、クリーンエネルギー技術の開発と展開を加速することを計画する。これには、技術協力の深化、譲与的融資を含む資金の動員、そして持続可能で耐久性のあるインフラの開発支援と技術協力の提供による競争力の向上と連結性の強化のための方法の模索が含まれる」

 という。だが、この点では、太陽光パネルをはじめとする代替エネルギー関連の機器製造でも、あるいは安全性の高い第3世代原子炉の大規模な実用化という点でも、中国が大きく先行している分野だ。中国に依存せずに、脱炭素化を実現することも、あるいは中国より先行して脱酸素化を進めることも、13の参加国に取っては極めてハードルが高い。

 4点目は、「税、反腐敗」というスローガンで、

 「我々は、インド太平洋地域における租税回避及び腐敗を抑制するために、既存の多国間の義務、基準、及び協定に沿った、効果的で強固な税制、マネーローンダリング防止、及び贈収賄防止制度を制定し、施行することにより、公正な経済を促進することにコミットする。これには、説明可能かつ透明性のある制度を促進するための知見の共有や能力構築支援等を模索することが含まれる」

 というのだが、これも分かりにくい。中国における反腐敗キャンペーンにシンクロする形で、習近平派の勢力を削ごうと意図があるのかもしれない。あるいは13カ国の中で汚職の問題に苦しんでいる国があるとして、中国を意識しつつ相互監視を行なって「自分達はクリーン」だと胸を張ろうというのだろうか。この点も、分かりにくいテーマだ。


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