ポール・クルーグマン教授が西側のロシア制裁は意外な形で効いている――それは輸入の激減をもたらし、戦車など装備の製造に必要な部品の供給を阻害している――と論じる一文を5月19日付のニューヨーク・タイムズ紙(NYT)に書いている。
クルーグマンの論説は、ロシアの急増する貿易収支黒字は輸入の激減によるものであり、対ロシア制裁を発動している諸国からの輸入のみならず、中立的あるいは中国を含む親ロシアの諸国からの輸入も激減していると見積もられると論じている。
ロシアの輸出入の分析については、5月14日号の英Economist誌も報じているので、そのデータを紹介すると、次の通りである。
・ロシアは毎月の貿易統計を公表することを止めたので貿易相手国の数字から推定するしかない。
・中国の4月の対ロシア輸出は一年前に比べて25%超減少した。他方、対ロシア輸入は56%超増加した。
・ドイツの3月の対ロシア輸出は前月比62%減少した。他方、対ロシア輸入は3%減少した。
・このような数字から推定すれば、ウクライナ侵攻以降、ロシアの輸入は44%減少した反面、輸出は8%の減少にとどまっている。輸出はエネルギー価格の上昇にも支えられて持ちこたえている。
・以上の結果、ロシアの貿易黒字は記録的な額となる。Institute of International Financeは2022年のロシアの経常収支黒字は2500億ドル――21年の1200億ドルの2倍超――に達し得ると見積もっている。
このEconomist誌の分析によっても、ロシアの記録的な貿易黒字はロシアの輸入の激減が大きな要因であり、クルーグマンの論説の分析と整合的である。しかし、Economist誌は制裁が貿易黒字を拡大し、プーチンの戦争を資金的に支えていることを問題視し、金融制裁が限界に達しているとの見方を伝えている。
それに対して、クルーグマンの論説は逆である。貿易黒字の拡大を問題視していない。ロシアの輸入が激減していることを西側の制裁が効いていることの証左であるとしている。