特に女性に大きい都市の「賃金プレミアム」
このように、女性が引き付けられているのが東京特有の現象ではなく、大都市部一般に観察される現象なのであれば、その背後にはどういった要因が考えられるであろうか。20代前半の転入超過が多いことに鑑みれば、就職や転職といった職業関係が一つの要因であると考えられる。
では、大都市は女性にとって働くのに有利な場所なのであろうか。これについて、興味深い研究がある。スコットランド・アバディーン大学のユアン・フィミスター教授の研究によれば、教育水準や職業の違いなどさまざまな個人属性をコントロールしても、都市部で働く人の賃金がそれ以外の場所での賃金より高い。都市部で賃金プレミアムが生じている。
男性の都市賃金プレミアムは3~4%、女性のそれは5~6.5%と推定され、男性よりも女性の方が大きい。このことは、男性よりも女性の方が都市で働くメリットが大きいことを示している。
女性の都市賃金プレミアムが男性のそれより大きいという結果は他の研究でも得られている。例えば、東京大学大学院経済学研究科の吉田和貴氏の修士論文では、07年から15年の日本の16大都市(東京23区や大阪市など)について、女性の都市部賃金プレミアムの方が男性のそれより大きいことが示されている。
もちろん、賃金は働く環境の重要な要素の一つであるが、全てではない。しかし、少なくとも、賃金という側面からは、大都市は女性にとって魅力的な働く場になっていると言えるであろう。言い換えれば、女性の働きに対して、大都市は、それ以外の場所に比べて、高く評価する場所である、ということである。
原則として、同じ働きに対しては男性か女性かに関係なく同じように評価すべきである。都市賃金プレミアムが男女で異なるということは、この評価が男女で同じように行われていないことを示しており、改善が望まれる。もちろん、女性の大都市志向は賃金のみが原因ではないであろう。
賃金以外の働く環境や生活の利便性といった側面も大きな働きをしている可能性がある。こうした可能性についてはさらなる研究が必要である。
東京と言えば、五輪やコロナばかりがクローズアップされるが、問題はそれだけではない。一極集中が今後も加速する中、高齢化と建物の老朽化という危機に直面するだけでなく、格差が広がる東京23区の持続可能性にも黄信号が灯り始めている。「東京問題」は静かに、しかし、確実に深刻化している。打開策はあるのか─―。
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