2024年4月27日(土)

家庭医の日常

2022年6月22日

時間外に子どもがけがをしたらどうするか

 拙著『医療大転換−−日本のプライマリ・ケア革命』(ちくま新書、2013年、7~11頁)でも例を挙げたが、医療機関の通常の診療時間ではない時間帯(時間外)に子どもがけがをすると、日本では、安心・安全なケアを受けることがかなり難しくなる。

 緊急時にどこへ連絡してどうすれば安心・安全かの適切な情報が普段から提供されていない、どの医療機関へ受診出来るかわからない、受診したところで適切なケアが提供される保証がない、当番医が何科の医師かによってケアの内容や質が制限される(偶然に左右される)、などなど不確かなことばかりだ。こうしたことを改善するためには地域全体でシステムを見直す必要があり、なかなか私のいる診療所だけでは如何ともし難いところがある。

 さらに今回のK.C.ちゃんの事例のように、子どものけがで頭を打った可能性がある場合にはさらに困難になる。「今日は小児科医がいない」「子どもの頭は診ない」などと受診を断られることが多い。

 何とか受診したらしたで、家族への十分な説明や相談がなく「とりあえず頭のCTを撮りましょう」となることが多い。放射線被曝などを含めたCTの害(幼少であるほど影響が大きい)を考慮してもなお実施すべき検査なのか、CTを撮らなかったらどうなるのか、家族(親)ならぜひ知りたいことを尋ねる十分な時間は用意されていない。

 幸いCTで「異常なし」とわかって帰されることになっても、今後起こりうることの説明とそれへの対処法についての情報がないと家族は不安である。例えば、夜中に頭を痛がったら、吐いたら、熱が出たら、けいれんを起こしたら、どこへ連絡してどうしたら良いのか。最初の診療までに経験したドタバタ劇を繰り返さなくても良いようなアドバイスが提供されるべきである。

健康に関する情報を何から得ているか

 ちょうど1年前に東京都が実施した「健康に関する世論調査」によると、「健康に関する情報を何から得ているか」の回答(複数回答可)として、テレビ72.8%、インターネット(SNSを除く)63.5%、家族・友人・知人からの情報41.3%がベスト3で、「病院等の医療機関」は18.4%だった。おそらく日本の他の場所でも同様な結果となるのではないだろうか。

 一方、家庭医が整備されている国々では健康に関する情報源として家庭医が最も利用されており、最近のドイツの研究では家庭医71%、他科専門医39%、インターネット33.7%がベスト3を占めていた。諸外国では家庭医がメジャーな情報源であることが日本との際立った違いである。自分や家族の健康について心配なことや疑問に思うことは自分の家庭医に尋ねれば良いのだ。

 日本では知りたい情報を必要な時に入手できるかどうかさえ心許ない。さらに、テレビやインターネットが必ずしも適切な情報を提供していないことは、以前の『家庭医の日常』にも書いた通りである(2021年8月の『患者に「がん検診を受けたい」と言われたら?』 、2022年5月の『慢性腎臓病から見える日本での医療DXに必要なもの』)。海外の家庭医なみの情報提供ができる医師が日本で増える必要がある。

 なお、英国には「メディア家庭医(media GP)」と呼ばれる家庭医がいて、テレビ、ラジオ、ソーシャルメディアなどを通して(しばしばレギュラー番組を持って)一般市民に対して健康に関する情報を提供して人気を博しているという。


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