蔡英文政権の蘇貞昌行政委員長(事実上の首相)が述べている通り、今回の米台間の新貿易協議体自体は、中身如何によっては、台湾がアジア・太平洋の民主主義前線に位置する特別の「優先的パートナー」(a priority partner)としての重要性をもっている証、となるものであろう。
中国にもある「曖昧戦略」
ウクライナ侵攻に関連して、バイデン大統領の最近の台湾についての発言は、米国がいざとなったときに、台湾を防衛するために駆けつけるかどうかが、最大の焦点になった。「曖昧戦略」と言われる言葉が米国の対台湾政策を表現する格好の言葉として議論されるようになった。
しかし、実態を見ると1978年12月、米国・中華民国の断交以来「曖昧戦略」をとっているのは、米国のみならず、中国も同様と言わねばならない。この時の「米中共同コミュニケ」は「台湾は中国の一部である」という中国の主張を米国は「acknowledge(認識)」する、と述べているが、これは法律上の「承認」や「合意」を意味する表現ではない。
さらに、「台湾関係法」(1979年4月)という国内法を持ち、台湾に対し防禦用の武器を供与することによって、台湾海峡の平和に事実上コミットしてきた米国の対応を「曖昧戦略」というなら、中国の言う「一つの中国の原則」なるものこそ同床異夢の「曖昧政策」にほかならないことになる。
米国は「台湾防衛のためにコミットしている」、という趣旨のバイデンの発言は単なる「失言」とは受け取ることが出来ないのではなかろうか。
このような状況下で、今回、米台両者間で経済関係強化のための新たは協議体がつくられることとなったことは積極的に評価出来るものであろう。