2024年11月21日(木)

解体 ロシア外交

2013年4月15日

 このような措置は、これまでの財政危機国への支援でも実施されたことがなかった。この決定に関し、EU側は、「キプロスの銀行の規模は経済規模に対して大きすぎ、特例として実施を決めた」と説明したが、実際は、欧州諸国がロシアの富裕層やマフィアなどの脱税やマネーロンダリング(資金洗浄)などにキプロスの銀行が利用されている忌々しき現状を打開し、ロシアを牽制する好機と考えたようだ。

GDPの6倍 「身分不相応」なキプロスの銀行資金

 キプロスの銀行資金は、同国のGDPの6倍以上もあり、「身分不相応」ともいえる状況で、その背後にロシア人がいたのも明らかだった。キプロスの銀行口座保有者の半数近く、特に大口預金者はほとんどロシア人とみられる。彼らの預金額は、2010年の夏以降で2倍以上に増え、2012年末には300億ドルを超えた。さらに、それ以外にも、名義はキプロス人ながら、実質的にロシア人のものと考えられる預金が300ドル近くあると見られている。これらの総額は、キプロスの銀行預金残高の半分以上を占めるのだ。

 つまり、EUがキプロスを救済すれば、結局はロシアの富豪を救済することになるため、「キプロス救済不要論」は2012年11月くらいからドイツでは議論されていた。このように、相次ぐ加盟国の経済危機で経済的にかなり苦境にあるEUは、事実上、キプロスの救済をロシアに押し付けたともいえる。

 他方、これまで、ユーロ圏では10万ユーロまでの預金は保証されていたのだが、それはもはや神話となった。また、キプロス政府が銀行預金への臨時課税を実施すればそれは悪しき前例となって、欧州の銀行システムへの信頼を揺るがせることは間違いない。一方、救済失敗で銀行が次々破綻すれば、その余波がドミノ倒し的に国際的に広がるのも間違いなく、EUとしても厳しい選択を迫られた形だ。

 ともあれ、このEUの決定により、キプロス政府は3月16日、全銀行口座からの引き出しを制限する預金封鎖を開始したが、預金者がATMに殺到し、国民が強い怒りを表明したため、そのたった2週間前に選出されたばかりのアナスタシアディス大統領は、17日に議会で予定されていた預金課税法案採決の先送りを余儀なくされた。

 これを受け、18日にはEUサイドも10万ユーロ以下の少額預金の「全額保護」の重要性を強調する一方、大口預金者への課税率を高くする方向で、支援策を修正した。

 また、同18日、ロシアのプーチン大統領はこの決定が不当だという声明を発表した。ロシア人預金者の損失額は最高20億ユーロに上ると見られたからだ。ロシアのメディアもEUがロシアとキプロスを食い物にしていると激しい批判を繰り広げた。


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