2024年4月25日(木)

WEDGE REPORT

2022年7月13日

 元国連次席大使の星野俊也大阪大学大学院教授によると、それらしい唯一の機会は92年1月に国連本部で開かれた安保理構成国による首脳会議(安保理サミット)の場だった。

 この会議は、冷戦という劇的な世界情勢の変化を受けて、その後の国連、安保理のありかたを話し合うために開かれた。当時の常任理事国、非常任理事国の計15カ国首脳が出席、日本からも宮澤喜一首相が議論に加わった。

 この時の安保理議長国、英国のメジャー首相が会議席上、「この場を借りてロシアを安保理メンバーとして歓迎したい」と宣言。これに異論は一切出ずじまいで、ロシアの常任理事国継承は、あっさりと決まってしまった。 

 エリツィン大統領は会議冒頭から参加し、「人権、市民の自由を尊重する」など簡単に新生ロシアの方針を説明したが、あいさつめいた言葉はなかった。以前からの常任理事国のようにふるまっていたという。

中国の代表権は総会で討議

 代表権をめぐる手続きは本来、より慎重であるべきだろう。71年10月、中国の国連加盟が実現した当時を例にとってみよう。

 中華民国(台湾)に代えて中華人民共和国を招請、安保理常任理事国の地位を与えるかについては、総会で討議され、決議が採択された。

 国連は45年10月の発足当時から、安保理常任理事国として、米英両国にフランス、ソ連、台湾を加えた5カ国をメンバーとしていた。いずれも第2次世界大戦で日本、ドイツ、イタリアなど枢軸国と矛を交えた戦勝国だ。

 台湾を除名するとなれば、安保理の勧告に基づく総会決議を必要とする。しかし、常任理事国である台湾は拒否権を行使して勧告を阻むだろうから、それを避けるため、除名ではなく、中国の代表権を移すという形式がとられた。

 これによって法的な手続き、整合性がはかられた。台湾は決議採択濃厚となった時点で、自ら脱退した。こうした慎重な手続きに比べれば、ロシアのソ連後継国問題の処理が安易、あいまいだったことは一目瞭然、よく理解できる。

 2022年6月の総会で、ウクライナのキスリツア国連大使がロシア代表権の正統性を否定したのは、こうした経緯を踏まえてのことだった。大使は「ロシアはこれまで、国連における自らの存在を正当づける努力をしてきたが、ソ連の後身加盟国としての適格性が総会で認められたことは一切ない」と強調した。

憲章ではいまだに台湾とソ連が常任理事国

 ロシアの代表権に疑義を指摘するもう一つの根拠として、国連憲章23条1項がある。

 この条項は、安保理常任理事国として、英米仏のほか、「Republic of China」(中華民国)、 「Union of Soviet Socialist Republics」(ソ連)の名を現在も明記している。ロシア、中華人民共和国の名はない。つまり、憲章では、依然として台湾、ソ連が常任理事国だ。

 こうした虚構ともいうべき憲章に対して、ロシア、中国がなぜ、改正を求めないのか。不可解というほかはない。

 イタリアの通信社IPSは、これについて、「改正を求めて、(必要な)3分の2の賛成が得られなかった場合どうなるか。それを考慮したのではないか」との見方を伝えている。国際法専門家は、「憲章改正となると、拒否権を含む安保理全体の改革に議論が発展する可能性があり、それを避けようという思惑が各国にあるのではないか」と推測する。

 いずれにせよ、日本が依然憲章に残る「旧敵国条項」の撤廃を機会あるごとに要求しているのとは正反対というべきだろう。


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