2024年11月23日(土)

Wedge SPECIAL REPORT

2022年7月21日

権威ある組織の「声明」が
〝金科玉条〟となっている

 軍学共同反対連絡会が抗議で引用しているのが17年3月に日本学術会議(以下、学術会議)が発出した「軍事的安全保障研究に関する声明」(以下、17年声明)だ。

 学術会議と言えば20年、菅義偉首相(当時)が、同会議が推薦した会員候補者の一部を任命しなかった、いわゆる「任命拒否」問題で脚光を浴びた。同会議は首相所轄の一政府機関であり、年間約10億円の予算が計上されている。また、日本学術会議法第2条には「わが国の科学者の内外に対する代表機関」と規定されており、素直に読めば日本にいる約87万人の研究者を代表する〝権威ある〟組織だと言える。

 17年声明では、学術会議が1950年に発した「戦争を目的とする科学の研究は絶対にこれを行わない」旨の声明と67年の「軍事目的のための科学研究を行わない声明」を「継承する」としている。当然、大学に対しても影響力があるのだろう。17年声明が発出されて以降、筑波大学や名古屋大学を含む複数の大学が軍事研究を行わない旨の基本方針を決定している。

 全地球測位システム(GPS)をはじめ多くの科学・技術が軍民両用(デュアルユース)との認識が世に広まる中、その線引きは可能なのだろうか。

 科学思想史が専門の東京大学大学院教育学研究科の隠岐さや香教授は「学術会議という組織が科学者の戦時動員の反省の上に生まれたとすれば、軍事と民事の間に境界線を設定し続けることはむしろ組織の使命」と話す。

 一方で、17年声明の発出当時、学術会議の会長を務めていた大西隆・東京大学名誉教授は、「冷戦の終結後、米国ではデュアルユースが進んだとされる。不戦の誓いを立てた学術会議創設時の思いは不変だが、当時と比較すれば、国防に対する国民の意識は変化しており、多くが自衛のための組織は必要だと考えているというデータもある。17年声明が求めている各大学の判断は、こうした国民意識を踏まえて行われる必要があるだろう」とし、判断は各大学に委ねられているとする。

 内容自体を疑問視する声もある。ある私立大学の男性教授は「声明の主語が『学術会議の会員』なら問題ないが、科学者全体のコンセンサスであるかのように捉えられるのは誤りだ。〝権威ある〟学術会議の声明は、その内容に必ずしも同意していない研究者の異論を受け付けないという無言の〝圧力〟にもなる可能性がある」という。


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