2024年11月23日(土)

Wedge SPECIAL REPORT

2022年7月21日

「不幸」な形になってしまった
政治とアカデミーの関係性

 声明ひとつを巡ってもさまざまな意見が飛び交う中で、政府と学術機関との関係性はどうあるべきだろうか。

 日本を取り巻く「安全保障」環境が危機に瀕する現実を直視せざるを得なくなった今、政治や政策決定過程での科学や技術は一層重視されるべきと言える。学術会議が政府の一機関なのは、政府への提言機関として科学的根拠を示しつつ対等に議論することが期待されているからだろう。

 だが、「任命拒否」の一件が示したように、両者に「信頼」がないのは明らかだ。事実、政府が学術会議に学術的な調査審議を依頼する「諮問」の件数は、過去には1年間で10件を超えることもあったが、08年以降は0件が続いている。

 信頼関係が希薄な中で、期待される役割を果たせるわけがない。それでも政府機関に居座り続けるのはなぜか。ある大学の教授は「一部の学術会議の会員は、国の組織の一員という立場を利用して『軍事研究反対』を訴えることが目的のようにも見える」と語る。

 先進国の多くは学術機関が政府から独立しつつ財政支援を受けている。その意味でも日本は例外的だ。海外の政府と学術機関が、健全な緊張関係の下、対等な立場で議論できる背景には、政府機関としての〝権威〟ではなく、国民からの〝支持〟があるからではないか。前出の唐木名誉教授は、「今の関係性が続けば日本にとって最も不幸。学術会議も、『科学』という国民に信頼されるべき存在が、『政府』という信頼が薄い組織の一員であることにより国民の関心と信頼を低下させていることに気づくべきだ」と指摘する。

 このまま従来の延長線上で考えていては、両者の溝を埋めることは難しいだろう。学術会議が今後も「軍事研究反対」のスタンスを貫くのであれば、国の機関であるという〝権威〟に固執せず、政府から独立した組織として再出発することも検討すべきだ。

 そうした組織として国民から支持される活動を行い、ひいては政府からも一目置かれる存在となる──。それこそが、わが国の科学者を代表する機関として果たすべき役割であり、国民の期待する「新しい学術会議」像と言えるのではないだろうか。

 
 
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