2024年11月23日(土)

Wedge SPECIAL REPORT

2022年7月21日

 また、国立大学のある教授は「仮に自分の研究が同制度に採択されたことで市民団体が抗議に訪れる事態になり、マスコミにも報じられれば、学内で堂々と研究しづらくなる。対応する職員の負担にもなると思うと応募を躊躇うかもしれない」と本音を漏らす。

 こうした〝圧力〟が影響しているのだろうか。「安全保障技術研究推進制度」が創設された15年に58件あった大学等(高等専門学校、大学共同利用機関を含む)の応募は20年には9件にまで減少。また、既に採択されていた研究への助成を大学側が辞退した例もある。

 前出の国立大学の教授は「学術会議は科学者の研究の自主性・自律性を掲げているが、『軍事忌避』によってわれわれのような立場の研究者の自由を奪っている。日本の安全保障にも基礎研究にも役立つことを考えれば、同制度にも意義はある」と強調する。

 17年声明には別の疑問も浮かぶ。そもそも「軍事目的のための科学研究」とは具体的に何を指すのだろうか。

 学術会議でかつて副会長を務めた唐木英明・東京大学名誉教授は、「『軍事』には『攻撃』も『防衛』も含まれる。人を殺めるための研究は禁止すべきだが、平和を守るための研究と表裏一体だ。防衛装備庁から助成金を受ける研究=軍事研究で、それは悪だとの主張はあまりに一面的すぎる。ケース・バイ・ケースで考え科学者の『倫理観』にも委ねられるべきだが、それは当然時代によって変化し得る」と語る。

 外部の研究者にはどう映るか。安全保障に詳しい慶應義塾大学SFC研究所の部谷直亮上席所員は「ロシア・ウクライナ戦争では、民生技術として開発されたドローンが軍事転用され有効性が証明された。スマホやパソコンなど、今や何が軍事に使われるか分からない時代にもかかわらず、声明の内容は終戦から75年以上たった今も『古い戦争』を想定したまま止まっている」と指摘する。

 学術会議の現役会員も務める国立大学のある教授は「広い意味での安全保障には、狭義の軍事技術ばかりではなく経済的・外交的・文化的取り組みを通じてあらゆる学問が効果を発揮し得る。例えば、天気予測技術は軍事戦略上クリティカルに重要だし、外部からの衝撃に強い建物の設計技術は民生用にも必要な場合がある。こうした研究を軍事か民生かの二元論で区分して何らかの制約を課す甲斐はあまりないのではないか」と話す。


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