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2022年8月2日

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小谷 賢 (こたに・けん)

日本大学危機管理学部教授

1973年生まれ。ロンドン大学キングス・カレッジ大学院修士課程修了、京都大学大学院博士課程修了。防衛省防衛研究所主任研究官、英国王立防衛安全保障研究所(RUSI)客員研究員、防衛大学校講師等を経て現職。主な著書に『インテリジェンスの世界史』(岩波現代全書)、訳書に『特務 スペシャル・デューティー』(日本経済新聞出版社)など。

民間団体や企業も
重要なアクターに

 今回のウクライナでの戦争で、ロシアの偽情報工作が封じ込められているのは、偽情報を見抜く技術の向上に加え、米ツイッターやメタ(旧フェイスブック)などのプラットフォーマーが、好ましくない情報をブロックしていることも大きい。

 これは元々、過激派組織イスラム国(ISIL)が、SNSを通じて世界中から参加者を募っており、それを防ぐために、ISILの投稿をブロックしたことが効果を発揮したことで、今回も引き続き、ロシア国内から発信される疑わしい情報をブロックしている。これが世界中への偽情報の拡散を抑止しているのである。

 ただ、プラットフォーマーの独断で何でもブロックできるのは、民主主義国においては物議を醸すことになるだろうし、この点については今後も広く議論が行われるべきである。

 さらに、14年のロシアによるクリミア半島併合の際には、ロシアはサイバー攻撃と物理的な通信インフラへの攻撃によって、クリミア半島の情報インフラを一手に握ることになった。この反省から今回は、米マイクロソフトがウクライナ国内のサイバー・セキュリティーの任を負っており、今のところ有効に機能している。

 通信インフラの確保については、元IT起業家であるウクライナのミハイロ・フェドロフ副首相が、米国のイーロン・マスク氏に直接働きかけて、同氏のスペースX社が運用する衛星通信システム、「スターリンク」の使用が可能となったため、現在もウクライナ国内の通信環境は確保されている。

 このインフラを最大限に活用しているのがウォロディミル・ゼレンスキー大統領で、連日、世界に向けて情報を発信しており、なかなか生の声を聞けないロシアのウラジミール・プーチン大統領とは対照的である。ゼレンスキー大統領としては、頻繁に姿を現すことで、ロシア側の「大統領はウクライナを見捨てて亡命した」といった類の偽情報を封じ込めたいのかもしれない。

 さらにウクライナ国民が、スマホで現地の様子を写真や動画でネット上にアップロードできることは、諸外国政府や調査報道機関の情報収集にとって極めて有益であり、またウクライナで行われている非人道行為を世界に知らしめる意味でも大切になってくる。

 このように通信分野やサイバーで主導権を握れないロシア側はテレビ塔を物理的に攻撃したり、電波妨害兵器である「クラスハ-4」を首都キーウ近郊に展開させたりしたが、どれも決定打とはなっておらず、情報戦はウクライナ優位のまま進んでいる。

 ウクライナでの戦争においては、民間の団体や企業が情報分野の面で活躍しており、今回の情報戦は軍事力と偽情報・サイバー攻撃を組み合わせた、「ハイブリッド戦争」からさらに進化した、国と民間企業、そして情報発信を担う個人が密接に相互作用する、「インテリジェンス・SNS・サイバーのハイブリッド戦争」の様相を呈している。

 
 
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