2024年11月22日(金)

プーチンのロシア

2022年8月2日

 ロシアのプーチン大統領が今回の戦争を短期で終結できると考えていた背景には、かねてから金銭などを使い懐柔してきたSBU関係者などウクライナ国内の内通者らが、ロシア側に味方をするとの思惑があったからだとも推察されている。一部ではそのようなケースがあったが、戦況全体をみれば、ロシア側の思惑が外れたことは間違いない。

ゼレンスキーの苦心

 ロシアとの対立が続く最中に大統領に就任したゼレンスキー氏にとり、強大な権力を持つ治安機関の改革は、最重要の課題のひとつであったことは疑いない。今回解任されたバカノフ氏は19年に大統領によって任命されたが、その人事にはSBUを掌握しようとするゼレンスキー氏の苦心が見受けられる。

 バカノフ氏はもともと、治安機関とは全く関係がないキャリアを持つ。彼はゼレンスキー氏との幼稚園時代からの知り合いで、大学でも共に学んできた仲だった。さらに共同でテレビ番組の制作会社を立ち上げ、彼らが作成したテレビドラマ「国民の僕(しもべ)」が、ゼレンスキー氏を大統領選での勝利にまで押し上げたことはよく知られた事実だ。

 バカノフ氏はその後、ゼレンスキー氏の下で政党を率いたが、SBU長官への指名は、治安機関とのしがらみのなさを見込んでの人事であったとみられる。ただそれは、ロシアによる全面侵略という重大局面においては、十分な結果を期待することは困難だったに違いない。その責任は、〝親友〟には不釣り合いに大きすぎた。

戦況を左右する西側の協力にも影響

 バカノフ、ベネディクトワ両氏の更迭の背景には、欧米諸国の圧力があった可能性もある。

 ロシアとの戦争が長期化する一方、ウクライナ軍は南部を中心にロシア側の占領都市の奪還に向けた動きを本格化させようとしている。ウクライナが戦闘を継続するには、欧米の長期にわたる支援が不可欠だ。欧米が経済的な打撃を受けながらも、ウクライナの支援を続ける中、ロシア側のウクライナへの浸透は決して容認できるものではない。

 米国務省のプライス報道官は、ウクライナ当局による治安機関の透明化に向けた動きを支持するとしつつ、同国内での〝内側〟からの腐敗の危険性を強く警告した。

 プライス氏は、「ロシアによる攻撃はウクライナを外からの危機にさらすが、腐敗は内部からの危機を引き起こし、ウクライナ国民が今、懸命に守ろうとしている自由と民主主義を破壊してしまいかねない」と指摘し、「われわれは安全保障面での支援とともに、ウクライナの民主主義と反汚職の戦いを支援し続ける」と強調した。ウクライナの国内体制への強い懸念が伺える。

 欧州連合(EU)も6月下旬、ウクライナとモルドバを「加盟候補国」に承認した。その実現を目指す以上は、ウクライナは、治安機関へのロシアの影響力の浸透などは決して容認できない。

 SBUをめぐる一連の問題は、ソ連時代に構築されたウクライナの統治構造そのものにルーツを持つ。ウクライナという国家に深く根差した〝内なる敵〟との戦いは、ロシアとの戦争の行く末も左右することになりかねない。

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