2024年4月26日(金)

教養としての中東情勢

2022年8月4日

 アフガン戦争中、CIAは東南部ホースト州の「チャプマン基地」に拠点を置き、潜伏するアルカイダ幹部の情報を集めていた。09年12月、ザワヒリの情報を持っているというヨルダン人の医師をやっと取り込み、医師がチャプマン基地にやってきた。

 しかし、この医師フマム・バラウィはアルカイダの二重スパイだった。バラウィは重要な手掛かりが手に入ると期待していたCIA職員らの前で自爆、職員7人が犠牲になった。CIAがザワヒリの罠に落ちた瞬間だった。

 CIAにとっては史上最悪の情報作戦の失敗となった。以来、ザワヒリの殺害はCIAの目標となった。今回の暗殺が〝仇討ち〟作戦だったといわれる所以である。

それは家族の監視から始まった

 情報当局者の間では、昨年夏の米軍のアフガン完全撤退がザワヒリの追跡に役立つのではないか、との観測が強かった。ザワヒリが米軍の撤退に油断して姿を見せる可能性があったからだ。ザワヒリはそれまで、パキスタンとの国境の山岳地帯に潜み、組織を鼓舞する動画を発信していると見られていた。

 今年初め、ザワヒリを追い続けてきた情報当局者がカブールの中心地シャープル地区の3階建ての住宅にザワヒリの妻、娘、孫ら家族が移り住んでいることを突き止めた。建物は米大使館や米駐留軍本部があった地点からも近いところに位置している。

 この時点ではザワヒリが住宅内にいるのか、後で合流するのかなどは不明だった。しかし、間もなく、家族は時には用心しながら外出することはあったが、1人だけ絶対に外出しない人物がいることが分かった。

 この住宅はタリバン政権内の最強硬派シラジュディン・ハッカニ内相の側近が所有する建物で、ハッカニ・グループの支配地域にある。情報当局はこの老人の容貌や額にできた「祈りだこ」などの特徴からザワヒリ本人であるとほぼ特定し、4月1日、ホワイトハウスの国家安全保障問題の次席補佐官に説明、その後サリバン補佐官からバイデン大統領に伝えられた。

 CIAの監視班はザワヒリの日常生活のパターンを見つけるのに躍起になった。分かったことはザワヒリが早朝、息抜きのため住宅の3階部分のバルコニーに出てしばらく読書をする習慣があることだった。

 CIAのバーンズ長官は7月1日にホワイトハウス情報分析室で、ザワヒリの住宅の模型を見せながらバイデン大統領に正式に説明。大統領は攻撃した場合の巻き添え被害などについて質問した。

 大統領は米軍のアフガン撤退時の誤った攻撃で民間人10人を殺害した事件があったことから慎重になり、国家テロ対策センターに対し、ザワヒリ殺害の評価を求めた。法的に問題がないかも吟味された。米国人1人がハッカニ・グループの人質になっており、攻撃した場合の人質への危険性も検討された。


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