利用する側・与える側のモラルの問題ですが、これは他の業界にも共通している問題です。特に動物とはいえ「命」に関わる仕事ですから、今まで以上にインフォームドコンセントが重要になるでしょう。利用する側も飼育するペットに対する飼育知識は元より、生まれた環境や親の体質や性格までをも判断して飼育を始めることが重要となります。生き物はいつか最後の時が来ます。また、医者は神様ではありません。ペットとの良い時間を長く共有するためには、健康を維持するような飼育が必要なのです。
業界の「しきたり」の功罪
動物病院の業界にも古いしきたりが存在しています。業界を良い方向へ牽引していくため必要な部分もあるとは思います。しかし残念に感じることもしばしばです。例えば今年行われた動物愛護法の改正など動物の扱い、強いて言えばペットの社会的認知と地位の向上に関わる基本的な法律の改正に、獣医師会が深く関与していなかったことなどです。海外では動物の扱いに関する法律や条例の改正には獣医師が重要な働きをします。「動物の福祉」に精通し、命を助け育むことを生業にする仕事を国家資格で認められた代表者であるからです。
また、ペット産業の発展のためには、国民の飼育率を向上させることが重要と言われています。
飼育率を向上させるためには、ペットの社会的な位置づけを向上させ、適正な飼育と社会的制度の確立が必須となります。さらに、動物の命に対する認識も向上させることができなければ病気の治療に対価を払ってもらうことすらできなくなります。つまり、動物病院は必要なくなってしまうのです。
できることならば次回の改正では欧米並みの法律となるよう活躍して頂けたらと思います。
研究成果を社会に広めよ
ペットの社会的地位の向上に関してもう一つ。子どもがペットに本の読み聞かせをすることで、読解力が向上したというアメリカの大学の講義を聴講する機会がありました。少年犯罪の囚人に犬の訓練をさせることで、再犯率が低くなった事例もあります。動物との触れ合いで、脳内に幸せホルモンが分泌される研究も聴講しました。寝たきりだった老人が、ペットにおやつをあげたい一心で立ち上がり、生活能力を取り戻した例も目の当たりにしています。このような動物との生活を社会貢献につなげるための研究を行っているのも獣医師たちです。