2022年11月26日(土)

家庭医の日常

2022年8月25日

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葛西龍樹 (かっさい・りゅうき)

福島県立医科大学 医学部 地域・家庭医療学講座主任教授

1984年北海道大学医学部卒業。北海道家庭医療学センター設立および所長を経て、2006年から現職。英国家庭医学会 最高名誉正会員・専門医(FRCGP)。日本プライマリ・ケア連合学会監事。著書に『医療大転換 ─日本のプライマリ・ケア革命』(ちくま新書)など多数。

 その後の診察時に、T.H.さんは、子どもの頃から肥満で陰口を言われたり差別を受けたりしたこと、病院へ行けばみんなが自分をジロジロ見ているように感じたこと、概して医師がちゃんと診察してくれなかったこと、ある医師がT.H.さんの腕の太さを見て血圧を測るのをやめたこと、などの経験を私に語ってくれた。

「偏見」と「汚名」に対処するために

 前回書いたように、ケアの現場で太った患者へ向けられる「偏見」と患者がこうむる「汚名」(weight bias & stigma)には注意が必要だ。特に医療者側の偏見は厄介で、時に無意識のうちに私たちの言葉や態度に表れることがある(たとえ悪意が無くても)。

 だから私は、T.H.さんも含め肥満の人の診察をする前に、ざっと下記のような内容で自分自身の心の持ちようを点検することにしている。意識して偏見を排除し、汚名を軽減するためだ。

・体重だけに基づいて、その人の性格、知能、キャリア、ライフスタイルなどの傾向を仮定しないように

・どんな体重の患者に関わることも、ネガティブに考えないように

・どんな体重の患者へも、健康へ向けた行動変容を促す適切なフィードバックをするように

・肥満の人のニーズと心配に高い感受性を持つように

・体重だけに焦点を当てるのでなく、その人の持つすべての問題を探ろうとするように

・その人に人間としての興味を持つように

 さらに、次のことも忘れないように、自分に言い聞かせる。

・この人はかつて医療者からの偏見を経験したかもしれない

・この人は何度も減量に挑戦したかもしれない

・たとえ少しの減量でも重要な健康増進につながっている

・生活習慣を変えることの難しさに共感する

健康を決める社会的背景や環境

 映画『わたしは、ダニエル・ブレイク』の主人公ダニエルは肥満ではないが、心臓病になったためにそれまで誇りをもって働いていた大工の仕事を禁止されて、生活のために公的支援を受けようと悪戦苦闘する。

 申請方法や審査結果の通知などにそれぞれオンライン、郵便、電話といった別々の方法が指定されるなど、申請者にとってまったくフレンドリーでない複雑でわかりにくい申請手続き。詳しい説明を求めるダニエルをまるで彼に悪意をもっているかのようにぞんざいに扱う役所の担当者たち。まさに「偏見」と「汚名」で溢れている世界だ。

 社会にはびこる「偏見」と「汚名」が人の健康をむしばんでいく過程を見るのは辛い。家庭医や地域の多職種保健チームがなんとか助けにならないものか。

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