個人の健康に影響を与える社会的な背景や環境(家族、住居、所得、雇用、教育、余暇、人間関係、社会的支援、地域、国、文化、経済、保健医療制度、戦争・紛争、社会歴史的要素、メディアなど)は、「健康の社会的決定要因(Social Determinants of Health; SDH)」と呼ばれている。SDHが健康格差をより大きなものにする場合がある。
SDHについての理解を進め、必要な行動を促すことが世界的にも進められているが、まだまだ成果は不十分で課題が多い。
家庭医・総合診療専門医の専門学会である日本プライマリ・ケア連合学会は、2018年から『健康格差に対する見解と行動指針』を発表している(2022年改定)。この行動指針が周知され、今後の具体的なプロジェクトが発展し成果が出ることを期待したい。
究極の形と言える「リーガル・クリニック」
カナダのブリティッシュ・コロンビア大学の家庭医療専門研修プログラムでかつて私と同期生だった親友のビルは、現在はオンタリオ州トロントで家庭医をしている。彼のクリニックは、カナダでも数少ない「リーガル・クリニック」を併設していることが特徴だ。
移民の多い地域に住む貧困者固有のニーズに対応するために、医師と弁護士、そして社会福祉士(ソーシャルワーカー)が頻繁に直接対話しながら無料の法的サービスを含めたケアの連携を図っている。州政府からの資金援助や法律扶助運営団体の協力も得ている。家庭医がSDHの課題に取り組む究極の形とも言える。
映画『わたしは、ダニエル・ブレイク』によって明らかにされた英国の医療と福祉制度との連携の課題は、幸いその後の制度改革へとつながっているようにみえる。
もしビルとそのチームがダニエルをケアしていたらどうなっただろう。コロナ禍が落ち着いたら日本で休日を過ごしたいと言っているビルとの再会が楽しみだ。