2024年11月24日(日)

Wedge SPECIAL REPORT

2022年9月2日

バス、タクシー、鉄道……
それぞれの特性を組み合わせる

 今後の課題は『モビリティ・ブレンド』という発想を地域に根付かせることによる、取り組みの〝自走〟化だ。

 高蔵寺ニュータウンでは19年度からタクシーの乗り合いサービスの実証実験を繰り返している。1台に最大3人まで乗り合うことで、高齢者の通院利用が多い8時30分から14時に限って運賃を通常料金の半額とする。さらに、地域の病院やクリニック、スポーツクラブなど、協賛施設7カ所の発着運賃については、施設自身が利用料金の一部を負担するといった仕組みも取り入れている。

 前出の春日井市・津田主査は「自宅からいつでもどこでも移動できる自家用車という便利な交通手段を適切な時期に手放してもらうためには、免許を返納しても移動に困らないという安心感を高齢者たちに持ってもらう必要がある。そのためには、バス、タクシー、鉄道、自動運転カートといったそれぞれの交通手段が持つ特性を組み合わせ、最適な地域の交通網を整備しながら、最終的には、その運営や運用を地域に任せていくべきだ」と語る。

 実際に今年9月から、カートの補助ドライバーから予約受け付けオペレーターに至るまで、本取り組みの全ての運用は石尾台地区の住民有志によるNPO法人「石尾台おでかけサービス協議会」に委ねられる。

 また、車両購入などの初期費用はすでに行政が負担しているが、人件費といった今後のランニングコストについてはNPO法人で負担する計画だ。現在は実証実験中のため無料である乗車運賃の有料化だけでなく、居住家族・世帯単位や、町内会・老人クラブといったコミュニティー単位での会費負担にするなど、地区全体で支える運用スキームを計画している。

地域の交通手段を
自ら支える自助の意識

 冒頭の堀田さんは、同NPO法人の理事長を務める。子どもたちはすでに実家を離れ、現在は夫婦2人暮らしだという。

 「車の運転が可能な現在の状況だけを考えるのではなく、5年後、10年後の自分たちのために、地域の交通手段を自らの手で支えていく。春日井市との対話やNPO法人の活動を通じて、そういった自助の意識が芽生えた」

 バス、タクシー、鉄道など、今は当たり前のように存在する地域の交通機関も、将来の利用者が減れば、今後失われていくかもしれない。自動運転という最新技術を用いた新たな交通手段も、地域のニーズをくみ取り需要創出ができなければ宝の持ち腐れになる。技術とは、使ってこそ日々の生活を豊かにし、社会に新たな価値を生み出してくれるものなのだろう。

 
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