将来は常に遠ざかる
子育て雑誌を編集した12年という年月は自分としてはあっという間だったが、改めて考えてみると、編集部に入ったときにまだ2歳だった一人娘は14歳になっていた。周りの子より人一倍小さくて心配だった娘も、いつの間にか筆者より身長が高くなっている。
この12年間は筆者にとって間違いなく子育ての黄金期だったのだ。
その黄金期に、筆者は仕事で得た子育ての知識を生かせたのだろうか。そしてこれからはどんなことを大切にしていけばいいのだろうか。そんな気持ちで今までの取材ノートを読み返したり、今までに買い集めた100冊以上の本を読み返してみたりした。
その中でも特に強く目に留まったフレーズがこちら。
「将来を不安がるより、今日この日を大事に、楽しく過ごそう」
教育評論家の親野智可等さんの取材で聞いた言葉だ。親野先生は子どもの将来のために習い事を詰め込む親に対してこのように語っていた。
「そもそも将来というものは水平線のようなものです。実際にはないものがあるように見えているだけ。行けども行けども水平線は遠ざかり、将来というものも常に遠ざかります。実際にあるのは今日の「今・ここ」だけです。ですから、今日の「今・ここ」において親子共々幸せであることが一番大切なのです」
毎日がいっぱいいっぱいで将来のことなんて考えられなくても、今日この日を一生懸命過ごして、笑い合うことができたら、それ以上の幸せはないですよ、と親野先生は言っていたのだ。
この言葉を見た時ハッとした。
毎日、日々のミッションをこなしていくだけでいっぱいいっぱいになっていなかったか。「今日この日を大事に、楽しく過ごそう」という意識で生活していただろうか。
宿題をやっていなかったからといって叱り、寝る時間が遅いといって叱り、朝起きないと言ってまた叱り……。そんな日々も思い出されてきた。
実は、子育て本では「逆算思考」で行動するより、目の前のことに没頭することの大切さをうたっているものは多い。
逆算したところで、子どもの成長は予定通りにいかないことは多いし、「これが好き」と言っていたものがコロコロ変わる、ということもよくある。子育てなんて予定調和にいくことなんてほとんどないことは子育てを終えた人なら誰でも実感していることだろう。
将来が予測できないのであれば、大事なのは、「今」に集中し、楽しむ力だ。これは誰もができることだし、大人になってからもこれができる人は幸せに生きられる。
「この壺」に何を入れるのか
そして、もう一つ。子育て本やビジネス本で何度か目にした『この壺は満杯か?』寓話も印象に残っている。
簡略化するとこんな話である。