「佐藤くん、上半期の営業成績は君がトップだよ。下半期もこの調子でバリバリやってくれ」
「ヒロキ、去年よりもAの数が多いじゃないか。2学期も頑張れよ」
このように、仕事でも子育ても「成果を褒める」ことはよくあるシーンです。「叱ったり脅してやらせるより、褒めてやる気を出させる」。これはもはや人材育成の基本。
確かに人は褒められれば嬉しく思い、やる気に繋がるようにみえます。実は、褒め方に関しては、数多くの子育て本の中で語られています。筆者が10年以上子育て雑誌の編集をしてきた中で出会った子育て本や著者の言葉の中から特に親が知っておきたいと思ったエッセンスをまとめた『子育て本ベストセラー100冊の「これスゴイ」を1冊にまとめた本』(ワニブックス)にもさまざま盛り込まれております。
その上で筆者が感じていること――「褒める」は意外とキケンだった、ということです。
「成績が良いこと」がアイデンティティに
印象に残っている話があります。ある難関私立中学校の校長先生に取材をした時、こんなことを言っていました。
「うちの学校に入ってきた子の中には、自分のアイデンティティが『成績がよくてほめられてきたこと』であることが多いんですよ。でも、賢い子が集まっているんだから、その中でまた上位になれる子は一握り。中学校に入ってから今まで見たこともない順位になってしまうこともあるし、勉強についていけなくなってしまう子もいる。そうすると自分自身を見失って心がポキッと折れてしまう。だから中学校に入ってから新しい価値観を持たせることが急務なんです」
優秀な子ほど成績がいいことを親にも先生にも褒められ、その期待に応えるために頑張ってきた。しかし、「成績が悪い自分」になってしまった時、自分の軸がなくなってしまう。そのような時に、「なんでこんな成績になっちゃたの!?」「頑張りが足りないんじゃない?」と親から責められたら自己肯定感はさらに下がってしまう。
「成果を褒める」とは、そんな危険性をはらんでいるのです。これは、ビジネスに当てはまることでしょう。