次世代の半導体の素材
「酸化ガリウム」
川原 6Gはそれこそ加藤先生が取り組まれている自動運転の時代ですよね。自動運転の車がインターネットにつながって、いろいろな情報を取り溜める、IoTの時代です。
加藤 6Gが今日のテーマですけど、通信の方法は実はいろいろあります。半導体が発展してくると、これまでとは全然違う形の通信の仕方も開発されるでしょう。
瀧口 そこでも半導体がカギになってくるんですね。7G、8Gと10年ごとに出てくると、その先はどのような世界になっていくのでしょうか。
江﨑 今の半導体は、電子が摩擦を出しながら地面を走っているようなものなんです。ところが、電子ではなく光子(フォトン)になると、空中を飛んでいくようになります。すると摩擦がないので熱が出ず、すごく効率的になる。これをそのままコンピューティング計算に使いましょうという話が今チャレンジされていて、多分7G、8Gぐらいで入ってくるんじゃないかと思います。
黒田 いかにエネルギーを無駄にせずに移動するかというのはものすごく重要なことです。そのために新材料が果たす役割というのは大きく、今この研究が非常に盛んに行われています。
加藤 半導体の材料として、シリコンってどこまで存在し続けるんですかね。
黒田 私はかなり先まで存在すると思っていますが、一方でシリコンを置き換える新しいものというのはいっぱい出てきています。シリコンというのは1㌾ぐらいでオンオフさせますが、たとえば100㌾ぐらいのところでオンオフさせたいと思うと、当然違う材料のほうがそれに向いているんですね。
江﨑 今、日本の政策でもガリウム系の素材がすごく注目されています。窒素を使った「窒化ガリウム」が主戦場になっている。
さらに今、6万㌾のような大きな電圧の半導体というのは、大体シリコンからガリウムに代わろうとしていて、特に「酸化ガリウム」が注目されています。そもそも酸化しているので、これ以上劣化しないという話を教えてもらったこともあります。これは今、全世界で競争している新しい材料です。最もそれに力を入れて取り組んでいるのが中国で、実は日本でも国の予算で戦略的にガリウムを探索しようとしているところです。
黒田 逆に言うと、シリコンは地球上にいっぱいあるわけです。みんなが使える材料で、調達の心配、取り合いがないわけですね。だから広く使われているという逆の面もある。
瀧口 では「シリコンバレー」って言ってきましたけど、これから変わっていくのでしょうか。「酸化ガリウムバレー」とか(笑)。
黒田 「酸化ガリウム」は長いですね(笑)。「シリコンバレー」はシリコンが採れる場所だからではないんですよ。シリコンを使った知恵を出せる場所。人が集まる場所。だから、「ガリウムバレー」というのは、それを活用する知恵が集まる場所がそう呼ばれるんでしょうね。
瀧口 日本でもそういう場所ができてくるといいですね。
黒田 先ほどのエネルギー効率の観点を踏まえると、どこかの海底、海溝深くの場所がそうなるんだろうと思いますが、そこが「ガリウム何とか海溝」と地図に書かれれば、それも面白いですね。
川原 でも、名前がつくって大事ですよね。東大も「本郷バレー」と言いだしたら、いろいろな面白い人が集まってきています。それまでの東大はかなり保守的な雰囲気でしたが、パっと変わった感じがします。
瀧口 私も「HONGO AI」という本郷発のスタートアップのコンテストの司会をさせていただいたりして、どんどん東大が社会に開けてきているというのは肌で感じます。
川原 学生の頃、昼間は東大に行って、夜になると渋谷のベンチャーでバイトをして、という生活をしていました。その頃の本郷と渋谷の雰囲気は全く違っていて、ここは永遠に交わることはないのかもしれないとずっと思っていました。ですが、ここ10年ですごく変化したと感じます。
メタバース、自律型ロボット──。世界では次々と新しいテクノロジーが誕生している。日本でも既存技術を有効活用し、GAFAなどに対抗すべく、世界で主導権を握ろうとする動きもある。意外に思えるかもしれないが、かつて日本で隆盛したSF小説や漫画にヒントが隠れていたりもする。テクノロジーの新潮流が見えてきた中で、人類はこの変革のチャンスをどのように生かしていくべきか考える。
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