2024年4月27日(土)

冷泉彰彦の「ニッポンよ、大志を抱け」

2022年10月31日

 コンピュータセキュリティも、高度人材を集めて鉄壁の守りを固める必要がある。肝心のソフトも独自OSを含めて、各アプリも相当に巨大になる。

 現在の日本経済には、いきなりそんな巨大プロジェクトを立ち上げて回すだけの資金も人材もない。そもそも、そんなリスキーな経営判断のできる経営者もいないし、そのような判断を許す環境もない。従って、いきなりGAFAに伍して戦うというのは非現実的だ。

技術立国復権と衰退の勝負の分かれ目に

 では、このメタバース時代の曙光を、日本は何もせず傍観していていいのかというと、そんなことはない。日本にはこの大きな革新に参加できる役割はちゃんとあるし、そこで大きな成功を収めることで技術立国の復権の一歩を刻むことも不可能ではない。

 反対に、メタバースの動きに積極的に乗っていかなければ、経済の衰退に拍車がかかるであろう。そのために、今回は5つの「立ち位置」を提言したい。

 1つ目は、素材、部品のレベルでしっかり収益のチャンスにするということだ。残念ながら経営力と資金がなく、最新世代の半導体という面では本格的な参加は難しいが、それ以外のディスプレイ、カメラ、マイク、アンテナ、センサー類、筐体(きょうたい)、電源関係などの部品や素材に関しては、まだ日本には相当な競争力がある。

 GAFAの多くは日本に「研究所」を設けて、こうした部品、素材面での日本のノウハウを吸収する動きをしている。高度人材に高給をオファーして囲い込み、最終的には部品の内製まで持っていこうという動きだ。こうした動きについて、一部には、日本への投資として歓迎する考え方がある。

 だが、このメタバースという革新期をチャンスとして、例えば中小零細の部品・素材産業を民族資本の戦闘集団に再編するなど、日本の国内総生産(GDP)が流出しない工夫が必要だ。仮にメタバースというビジネスが大輪の花を咲かせる可能性があるのなら、軍需に囲い込むより民生で行くほうが国益という技術分野もあるかもしれない。その判断も含めて国としての戦略的な判断が求められる。

 2つ目は、日本が得意としていたRPGなどのカテゴリにおけるゲームソフトを、本格的なVRまたはMR(場合によってはAR)へしっかりバージョンアップして、民族資本の知財として成長させることだ。メタバースに対応するソフトは、どうしても過去のゲーム環境よりも巨大なプログラムとなる。

 一方で、メタバースのマシンが高性能になれば、ユーザーの期待はより高度になる。そうすると、多くの場合、ゲーム開発の初期投資も大きくなりそうだ。そこで資金が足りないばかりに、せっかくのコンテンツを外資に奪われるようでは元も子もない。

 3つ目は、法律の枠組みをしっかり整理するということだ。特に、プライバシーの問題、仮想空間における意匠等の所有権・真正性をNFTなどで認証する問題などは、法体系のより高度な成熟と同時に、国際的な枠組みづくりへの参加が求められる。

 中国は今回の新体制人事が象徴するように、こうした問題でグローバルな枠組みとは残念ながら異質な道を歩むことが明らかとなった。従って、日本にはアジアの代表としてこの問題に積極的に取り組んで行く責任が生じている。


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