2024年4月26日(金)

冷泉彰彦の「ニッポンよ、大志を抱け」

2022年10月31日

日本の文明との親和性は高い

 4つ目は、日本という文明の特質を活かしきるということだ。2000年の歴史の蓄積の中で、日本には独自のビジュアルデザインの伝統がある。またストーリーを紡ぐ伝統、視覚だけでなく聴覚や躍動などを加えた総合芸術の伝統もある。更に手触りや質感にこだわるなど、五感に訴える表現、またその受容の極めて洗練された文明を実現している。

 これはそのまま、仮想空間を設計し、実現し、その空間においてリアルな人間が仮想の空間とインターフェースしてゆく際の「質」つまり「付加価値」に転化できる性質のものだ。その意味で、過去のコンピューター、スマホ、タブレット、ゲーム機などとは比較にならない可能性が日本にはある。日本という文明はメタバースとの親和性は非常に高いのだ。

 5つ目は、B2B、B2Cにおける活用だ。実は民生用のコンテンツよりも、ビジネス目的の方がメタバースの活用は手の届くところにある。医療関係の遠隔サービス提供、福祉サービス、物品の店頭販売の代替、旅行や展覧会・博物館の仮想体験、会議、見本市、情報交換、株主・取引先とのコミュニケーション、遠隔地からの生産管理(工場、農場など)、セキュリティ管理など、メタバースは正に即戦力と言っていい。

 この点に関しては、非常に成熟した社会でありながら、人手不足と資金不足に悩む日本は、他の経済圏以上に、メタバースのビジネス利用の恩恵を受ける位置にあると考えられる。反対に、急速に進むメタバースの進歩を利用できれば、30年に及ぶ生産性の低迷から脱却できるかもしれない。経済界には、そのぐらいの気概を持って対応していただきたい。

 
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