2024年11月22日(金)

冷泉彰彦の「ニッポンよ、大志を抱け」

2022年10月31日

日本の文明との親和性は高い

 4つ目は、日本という文明の特質を活かしきるということだ。2000年の歴史の蓄積の中で、日本には独自のビジュアルデザインの伝統がある。またストーリーを紡ぐ伝統、視覚だけでなく聴覚や躍動などを加えた総合芸術の伝統もある。更に手触りや質感にこだわるなど、五感に訴える表現、またその受容の極めて洗練された文明を実現している。

 これはそのまま、仮想空間を設計し、実現し、その空間においてリアルな人間が仮想の空間とインターフェースしてゆく際の「質」つまり「付加価値」に転化できる性質のものだ。その意味で、過去のコンピューター、スマホ、タブレット、ゲーム機などとは比較にならない可能性が日本にはある。日本という文明はメタバースとの親和性は非常に高いのだ。

 5つ目は、B2B、B2Cにおける活用だ。実は民生用のコンテンツよりも、ビジネス目的の方がメタバースの活用は手の届くところにある。医療関係の遠隔サービス提供、福祉サービス、物品の店頭販売の代替、旅行や展覧会・博物館の仮想体験、会議、見本市、情報交換、株主・取引先とのコミュニケーション、遠隔地からの生産管理(工場、農場など)、セキュリティ管理など、メタバースは正に即戦力と言っていい。

 この点に関しては、非常に成熟した社会でありながら、人手不足と資金不足に悩む日本は、他の経済圏以上に、メタバースのビジネス利用の恩恵を受ける位置にあると考えられる。反対に、急速に進むメタバースの進歩を利用できれば、30年に及ぶ生産性の低迷から脱却できるかもしれない。経済界には、そのぐらいの気概を持って対応していただきたい。

 
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 メタバース、自律型ロボット──。世界では次々と新しいテクノロジーが誕生している。日本でも既存技術を有効活用し、GAFAなどに対抗すべく、世界で主導権を握ろうとする動きもある。意外に思えるかもしれないが、かつて日本で隆盛したSF小説や漫画にヒントが隠れていたりもする。テクノロジーの新潮流が見えてきた中で、人類はこの変革のチャンスをどのように生かしていくべきか考える。
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