2024年4月26日(金)

冷泉彰彦の「ニッポンよ、大志を抱け」

2022年11月13日

民主党に吹いた追い風

 まず、民主党だが、投票日直前に共和党優勢という報道が飛び交ったために、危機感を持った有権者が投票所に押し寄せたという見方がある。いわゆる「アナウンスメント効果」が、SNS時代の現代では高速かつ大規模に起きた可能性があるというのだ。

 また、共和党優勢という予測の背景には、有権者のインフレと治安への大きな不満があり、現政権への強い批判となるだろうという見通しがあった。だが、これも、民主党支持者にとっては、トランプ復権への強い抵抗感、あるいは環境や中絶問題などへの危機感を覆すものではなかったようだ。

 一方の共和党については、多くの要素が錯綜していたと考えられる。

 まず、夏までの段階で行われていた多くの予備選において、ドナルド・トランプ前大統領は、現職もしくは共和党の穏健派の候補を「引きずり下ろして」自派の候補を押し込んでいた。その候補の多くが、急遽政界入りを決めた「素人候補」であり、結果的に選挙戦で民主党に競り負けたと考えられる。

 典型的な例が、今後の政局を左右すると言われている、ペンシルベニア州上院の選挙だ。トランプは、知名度の高いTVタレントであるマメード・オズ医師を激しい予備選の結果、共和党の統一候補に押し込んだ。だが、投票日直前に「オズ候補は隣のニュージャージーに豪邸を構えており、ペンシルベニアの代表ではない」という暴露キャンペーンを張られて結果的に落選してしまった。怒ったトランプは、オズ医師を推薦したメラニア夫人を罵倒したという報道すらある。

「トランプ隠し」の欠点と限界

 そのトランプに関しては、終盤の選挙戦において、共和党の本部は「演説会の回数を抑えた」フシがある。俗に言う「トランプ隠し」である。

 例えば、上院議員選で敗北したペンシルベニア州の場合は、11月5日の夕刻に演説会が行われた。本来であれば、大都市であるフィラデルフィアかピッツバーグで行うのが有効なはずだ。だが、演説会の行われたのはラトローベという山間部の小さな町の小さな空港であった。つまり、長距離をドライブして駆けつける熱心な支持者「だけ」が参加できるイベントというわけだ。

 どういうことかというと、大都市での大規模イベントは目立ってしまう。そうすると「インフレに憤って共和党に投票し、バイデン政権にお灸を据えてやろう」というような無党派層が「やっぱりトランプはイヤだ」として、共和党への投票を控える危険がある、そんな計算があったと考えられる。


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